3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……はあ〜。何とか乗り切りました……」
3121号室から出た瞬間、全身の力が抜け、私はその場でしゃがみ込んでしまう。
……何だろう。この既視感は。
毎回楓様の部屋から出て行く度に、何かしらのダメージを受けているような気がする……。
それぐらいに、楓様は私にとって刺激が強すぎる存在であり、益々これから仕えていく自信なんて無くなってしまう。
本当に何故こんな私をバトラーに任命したのか。
もしかしたら、先程のように単に遊ばれているだけなのかもしれない。
私が楓様に歯向かってしまった腹いせとして……。
でも、そんな事をするようなお方にも見えないので、結局真意は相変わらず不明のまま悶々とする。
いつか聞ける時があったら、思いきって尋ねていいかもしれないけど、そんな日が果たして来るのだろうか。
バトラーである以上、お客様との信頼関係は絶対なのに、あの刺々しく、人と全くコミュニケーションをとろうとしないお方と一体どう接していけばいいのかも分からないのに……。
このまま蹲っていると、どんどんと負の思考に押しつぶされそうになるので、それを何とか振り払うために、勢いよく顔を上げる。
そして、一先ず楓様から賜ったお仕事に取り掛かるべく黒色のUSBを握りしめると、私はその場から立ち上がり、今度は足早に事務室へと向かったのだった。