3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

そして、何やかんやでようやくチェックアウトの時間となり、私は白鳥様と一緒にホテルを後にする楓様を見送ると、何度目かの深い溜息を吐く。

楓様といい、白鳥様といい、今まで出会った事がないキャラクターの濃さに私は終始圧倒され続けながら、とりあえず特に問題も起きず、何とかバトラー初日を無事に迎える事が出来、ほっと胸を撫で下ろした。

たった一日しか経っていないのに、気を緩んだ瞬間今までの何倍もの疲労感が押し寄せてきて、私は危うく体がふらつきそうになるのを、すんでのところで堪える。

おそらく、何回かこなしていけばその内慣れていくのだとは思うのだけど、それまでの道のりが何だか果てしなく感じ、軽い頭痛がしてきた。



「っあ、天野さん。お疲れ様。東郷様のバトラー初日は大丈夫だった?」

気怠い体を引き擦りながら、私も帰り支度をしようとフロントへ戻ると、丁度早番の瀬名さんと鉢合う事が出来、憂鬱だった気持ちがみるみるうちに晴れていき、自然と笑顔になれた。

「は、はい!何とか無事に終えました」

ずっと心配して下さったのか。私の顔を見るや否や、気遣うような目で見てくる瀬名さんの言葉が疲れた体に染み込み、力がみなぎってくる。

「はい、どうぞ。丁度渡せて良かった。疲れている時は甘い物が一番だから、これ食べてゆっくり休んでね」

すると、突然の瀬名さんからの差し入れに、私は目を丸くさせながら渡された白い小さな紙袋を手に取る。

恐る恐る中を見ると、そこには金色のリボンで可愛くラッピングされたピンク色の箱が入っていて、脇には今話題となっているお店の名前が刻まれていた。

「こ、これってなかなか手に入りにくい代物じゃないですか!?」

それは確か、以前テレビで見た女性の間で人気絶頂となっている有名なパティシエがプロデュースした洋菓子のお店。

値段は少し張るものの、色とりどりで、変わり種もあってどれもお洒落で美味しそうなお菓子に一度は食べてみたいとは思っていたけど、いつも行列が出来ていたので断念していた。

まさか、そのような物を頂けるなんて夢にも思わなかった私は、目を輝かせながら瀬名さんを見上げる。

「あ、ありがとうございます!ここのお店ずっと気になっていたので、凄く嬉しいです!」

生まれて初めての男性からの贈り物。
しかも、好きな人からの贈り物に思わず感極まって涙が出そうなってしまうのを必死に堪えながら、私は満面の笑みで心の底から瀬名さんに感謝の気持ちを伝えた。
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