3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「喜んでくれて良かった。あと、この前言ったご飯なんだけど、今お店探してて……天野さん何か食べたいのある?」

それから、いつぞやのお誘いの話を持ち掛けられ、心臓が大きく跳ね上がった私は、ざわめき出す胸中を悟られないよう平静を装いながら、顎に手を充てる。

「そ、そうですね、私は特にないので瀬名さんが食べたい物でいいですよ」

「やっぱり、天野さんならそう言うと思ったよ。色々見てるんだけど、この辺あり過ぎてなかなか決められないんだよね」

「それでは瀬名さんに探して頂くばかりでは申し訳ないので、私もいくつか候補を見つけてみますね」

「ありがとう。それじゃあ、俺も探したお店の情報後で送るから、一緒に選ぼうか」


……ああ、素晴らしい。

これがデート前の男女の会話なのでしょうか……。

なんて甘く、とても幸せな気持ちになれるものなのでしょう。


暫く瀬名さんと食事会の話で盛り上がる中、私は今にも宙に浮いてしまいそうな心境に、口元がにやけてしまうのを何とか必死で堪えた。

楓様にはお嬢様育ちと馬鹿にされてしまったけど、全く否定出来ない程に男性との関わりなんて皆無のまま今に至る私にとっては、この会話がとても新鮮で刺激的になる。

万年女子校生活を迎えていた私には決して味わう事のなかった経験を、社会人四年目にしてようやく自分も出来るようになり、感無量になりながら瀬名さんとの会話に集中した。

けど、幸せなひと時はフロントの電話によって遮断されてしまい、瀬名さんが直ぐに応対をし始めたところで私達の会話は強制終了してしまう。

確かにこれ以上瀬名さんのお仕事の邪魔をするわけにもいかないので、私は会釈だけすると、後ろ髪を引かれる想いでその場を後にしたのだった。
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