3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇


「あ、あの今日からこちらの階層に配置になりました天野美守です。よろしくお願いします」

もうすぐチェックイン開始時間となり、私は持ち場に着く前にVIP階層の責任者である御子柴(みこしば)マネージャーに深く頭を下げた。

「ああ、支配人から聞いたよ。今日からよろしくね」

そう仰ると、御子柴マネージャーはやんわりとした笑みを浮かべてから、私に手を差し出してきた。

「はい、精一杯頑張ります」

御子柴マネージャーとは何度か面識のある私は、相変わらずの優しく穏やかな人柄に緊張感が少しだけ薄れ、差し出された手を笑顔で握った。


御子柴マネージャーは、当ホテルに長年勤めている重要人物。

真っ白な白髪が特徴的で、あと数年で退職となってしまうけど、そう感じさせない程の機敏な動きに、礼儀正しく紳士的で、総支配人は絶対的な信頼を置いていた。

そして、二十年以上VIP階層のマネージャーを務めていて、お客様の中でも御子柴マネージャーの信頼は特に厚かった。

そんな素晴らしい方の配下につくなんて、なんと光栄な事なんでしょう。

……と、私は胸を躍らせながら羨望の眼差しを御子柴マネージャーに向けた。


「それじゃあ、詳しい事はチーフマネージャーに聞いてね。……あと、くれぐれも3121号室のお客様には決して粗相のないように気を付けること」

それから軽い挨拶が終わり、いざ持ち場に着こうとした矢先に、御子柴マネージャーから重々しい雰囲気で忠告を受け、私はきょとんとした表情をしながらも、首を縦に振った。


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