3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

少しの間だったけど、瀬名さんと会えたことで、気付けば今までの疲れはものの見事に消え去っていて、私は軽い足取りで事務室を出る。

そして、バックの中にしまった差し入れにもう一度目を向けると、自然と口元が緩んでしまう。

飲み物だけでも十分だったのに、まさかの話題沸騰中であるお菓子を頂けるなんて、今でも信じられない状況に私の気持ちは終始舞い上がりっぱなしだった。

瀬名さんがこのお菓子を知っていたのも驚きだけど、それを差し入れの品として選んでくれたなんて……。

もしかして、私の為にわざわざ並んで下さったのでしょうか……。


なんて。
そんなおこがましい考えまで浮かんできてしまい、私はこれ以上浮き足立ててはいけないと首を思いっきり横に振る。

けど、そう思ってもいいのではと感じる程に、最近になって瀬名さんとの距離が急激に近付いてきてるような気がしてならない。

確かに同じ職場になったのだから、それは当たり前の話なのかもしれないけど、いつも私のことを気に掛けて頂いているし、こうして素敵な差し入れまでして頂き、食事にも誘ってくれるなんて……。


もしかしたら、瀬名さんも私の事を……。

……。


……………。


……ああっ!

流石に、いくら何でもそれは調子に乗りすぎてます!


心の奥底から覗いてきた身勝手な期待に恥ずかしくなり、私は真っ赤になりながら人目も憚らず、一人顔を両手で押さえた。

今までこんな経験をした事がない分、男性の心情なんて分かる筈もなく、瀬名さんの振る舞いが一体何なのか全く理解出来ない私は、舞い上がる気持ちと同時に段々と混乱し始めていく。


これは一度桜井さんにご相談した方がいいのでしょうか……。

彼女は今お付き合いをしている方がいらっしゃるし、可愛くて人懐っこい性格だからきっと私なんかよりも何倍も恋愛経験は豊富な気がする。

それならば、今はなかなかお会いする事が出来ないけど、今度頃合いをみて桜井さんともお食事に行ってみるのも良いかもしれない。


そう思い立つと、それはそれで何だか楽しみになってきた私は、期待を胸に再び軽い足取りでホテルを後にしたのだった。
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