3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから程なくして、女性の声が聞こえなくなると、私は恐る恐る耳を塞いでいた手を下ろして、ゆっくりとリビングへと向かう。

どうやら営みは完全に終わっていて、女性が服を着始ていた事に私はホッと胸を撫で下ろす。

そしてお声が掛かるまで暫く入口で待機していると、何とも妖艶な雰囲気を醸し出す、髪の長い綺麗な女性がこちらに向かってきた。

「それでは楓さん、また今度お会いしましょう。お忙しいのにお相手して下さってありがとうございます。今日もとても良かったです」

続いてバスローブ姿の楓様が見送りに来ると、女性は彼の首元に抱き付き甘い声でそう囁くと、こちらの存在にはお構いなしに楓様と熱いキスをする。

こんな間近で濃厚なキスを見せられた私は、全身湯気が出る程真っ赤になり、目を逸らして震える体を何とか抑える。

そこから聞こえるお二人の粘液が交わる音がとても不快だったけど、この至近距離だと流石に耳を塞ぐことも出来ず、私は再び襲ってきた地獄のような試練にひたすら耐え凌ぐ。


「それじゃあ、おやすみなさい」

少し経ってから、ようやく楓様の唇を開放した女性は、彼にやんわり微笑むと相変わらず私には目もくれず、この部屋を去って行った。


こうして残された私と楓様。

やっと解放された状況に、私は全身の力が抜け、今にもこの場から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。


「ああ、疲れた。するのも楽じゃないな」

そんな私の事なんて一切気に留める様子もなく、楓様は気怠そうに呟くと、踵を返してリビングに戻り、ソファーに腰を掛けて煙草を吸い始める。

呼び出された私は直ぐに主の元へと向かわなければいけないのだけど、先程のショックが大き過ぎて、体がなかなか言うことを聞かない。

楓様と向き合おうと気合を入れてきたのに、その決意は見事に打ち砕かれ、今は近付くことさえ躊躇ってしまう。
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