3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「おい。そんな所で突っ立てないで、いつもの持って来いよ。あと、そこにある上着汚れたから直ぐクリーニングして明日持ってこい」

すると、いくら経っても反応がない私に苛立ちを感じたのか。

楓様は鋭い目でこちらに視線を向けると、不機嫌そうな声で指示をしてきた事に、私は我に返ると、慌ててテーブルに置かれていた衣類を手に取る。

その途端、一瞬気が緩んだせいなのか、意図せずに突然涙が溢れだしてきて私は自分でも驚きを隠せなかった。

「…………は?泣いてんの?まさか、さっきのがそんなにショックだったわけ?」

そんな私を、目が点になりながら呆然と眺める楓様。

「……あ。こ、これは……」

まさか仕事中に、しかもお客様の前で泣いてしまうとは。

またもや犯してしまった失態に、私は止めどなく零れ落ちて来る涙を必死に拭いながら頭を深く下げる。

「も、申し訳ございません!大変失礼しました!こちらは仕上がり次第明日直ぐにお届けにあがります。その他に何かご用件はございますか?」

それから、泣き顔を見られたくなくて、いけないとは思いつつも、私は楓様から目を逸らしながら他の指示がないかを確認する。

「…………もういい。とりあえず、目障りだからさっさと出てけ」

東郷様は暫しの間、こちらを睨み付けるように黙って凝視してきた後、不意に私から目を逸らし、呆れたような口調であしらってきた。

その言葉が胸に突き刺さり、私はまたもや涙腺が緩み出しそうになるのを必死に堪えながら、もう一度深く頭を下げて部屋を後にしたのだった。
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