3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
……ああ。

またやってしまった……。

また、楓様を不機嫌にさせてしまったなんて……。


3121号室を出てその場にしゃがみ込む事が、もう習慣になってしまった私。

気を緩ませると再び涙が溢れそうになり、これ以上仕事中に泣くわけにはいかない為、歯を食いしばりながらその場で耐える。

けど、容赦なく襲ってくる負の感情に体が震え出し、私は自分の両腕を抱えて縮こまった。


一体いつになったら私は立派なホテルマンになれるのでしょうか……。

確かに、楓様の行いは配慮も何もない非道な振る舞いではあるけれど、道理を求めたところでどうしようもない。

犯罪行為は流石にダメだけど、そうでなければどんなに非常識な方でもそれを受け入れ皆平等に、精神誠意尽くすのが立派なホテルマンとしての勤めであること。

これは、入社当時の研修で最初に言われた言葉なのに……。

あの頃はその意味を漠然としか捉えていなかったけど、今になってようやく分かった。それがどれ程過酷で大変な事なのか。

今までも理不尽な振る舞いは何度も受けてきたけど、それ以上にこんな仕打ちは初めてだった。

けど、世の中には沢山の方々がいらっしゃるので、これぐらいで弱音を吐いていたらホテルマンなんて到底務まらない。

自分の感情がコントロール出来ないなんて、これでは、今後もバトラーとして、楓様に最高のおもてなしをお届けすることができるのだろうか……。

当ホテルに就職してから数年経ち、それなりに形になってきていると自負していたけど、結局それはただの傲りだったという事実を突きつけられ、私は暫くその場から動く事が出来なかったのだった。
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