3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それからというもの、楓様とどのように接していけばいいのか分からないまま、私はいつもの軽食をお部屋までお持ちした。

その間、楓様は私を一切見ることもなく、話し掛けることもせず、ただ仕事に集中していて、まるで自分が透明人間にでもなったような気分だったけど、そんなことはこれまでの業務の中でもよくある話であって、大した事じゃない。

それなのに、今の私にはその対応がとても心苦しくて、まるで遮断されているような気がして余計自己嫌悪に陥ってしまう。

楓様のことをもっと知りたいと思っていたのに、このように簡単に挫折してしまうようでは、信頼関係なんて築けるわけがないのに。

それ以前に、こんな私ではその内切り捨てられるのも時間の問題なのかもしれない……。


そんな思考が絶え間なく浮かび上がり、私はあまり仕事に集中することが出来ないまま次の日の朝を迎える。


あれから楓様からのお呼び出しは何もなく、白鳥様の指示通り朝食をお持ちしたら、早々に出勤されていて、顔を合わすことすら出来なかった。

おそらくお仕事が忙しいだけなのだとは思うけど、何だか避けられているようにも思えるのは、ただの被害妄想なのだろうか……。


けど、お仕事の関係でここ数日間は滞在するとの事なので、おそらく今日もいらっしゃるのでしょう。


この気まずい空気が解消されないまま、果たしてこれからもバトラーとしての勤めが果たせるのだろうか……。

もし、また婚約者の方との営みに遭遇してしまったら。また失態を犯してしまったら。

もう、私はホテルマンとしての資格はなくなってしまうのかもしれない。

今度こそ、楓様に完全に見放されてしまうのかもしれない……。

怖い。

もう、これ以上苦しみも、失望も味わいたくないのに……。
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