3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……それと天野君、楓様とは上手くやっているかな?」

しかし、安心していたのも束の間。

まさかの思わぬ問いかけに、私はつい大きく肩を震わせてしまった。

「み、御子柴マネージャーそれは一体どういう意味で仰っているのでしょうか……」

今の状況下、お世辞でも首を縦に振ることが出来ず、しかもタイムリー過ぎる話に私は変に警戒してしまい、失礼なのは承知だけど、つい質問を質問で返してしまう。

そんな私の様子に何かを感じ取ったのか。
御子柴マネージャーは顎に手を当てながら、暫く考え込むようにこちらをじっと見つめてきて、私はその視線に再び鼓動が早くなっていく。

「特に深い意味はないから安心して。君はいつだって全力で尽くしてくれているのは分かっているから。……ただ気になったから聞いてみただけだよ」

そして、いつもの優しい目つきに変わった御子柴マネージャーの放つ一言一言に何だか重みを感じ、私はたじろいでしまう。
まるで胸中を見透かされているような……そんな気がしてならない。

「……あまり良好とは言えません。昨日も私は楓様に失態を犯してしまって……」

だから、上司である以上、現状をありのままに報告せねばと、私は隠す事なく自分の心境も含めて正直にこれまでの事をお伝えした。



「…………そうか」

全ての話を聞き終えた後、御子柴マネージャーは深い溜息を吐いて、今度は真剣な顔付きになり、暫しの間口を閉ざされてしまう。

その沈黙が余計に不安を掻き立てられ、私は冷や汗を垂らしながら次の言葉を待った。


「いいんじゃないかな。それで」

何を言われるのかと思いきや。
まさかの全くの予想外な返答に、私はつい間の抜けた声を発してしまった。

「前にも言ったでしょ?君らしくいけばいいと。だから、ホテルマンとお客様という堅苦しい概念は一度置いてしまって良いよ」

しかも、御子柴マネージャーらしからぬ発言に、もはや開いた口が塞がらない。

「な、何を仰っているのですか?それでは、私達の理念を根底から覆してしまいます。そんなホテルマンとしてあるまじき行為は……」

尊敬するお方に私なんかがこんな事言うのは身の程知らずなのかもしれないけど、到底納得出来ない話にどんな意図があるのか全く分からない私は、終始頭の中が混乱していた。

「必要なんだ。楓様には」

すると、こちらが言い終わる前に被せ気味に少し強めの口調で断言してきた御子柴マネージャー。

その勢いに圧倒されてしまい、私は即座に口をつぐむ。

「正直な反応を見せる事が、きっとあの方にも良い刺激になるだろうから……」

そして、神妙な面持ちで語る御子柴マネージャーの意味慎重な言葉が、ダイレクトに私の胸に突き刺さってきた。
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