3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
__時刻は正午前を示すところ。
私はクリーニングが完了した上着を持って楓様がお勤めしているオフィスビルへと足を運ぶ。
これまで楓様に会うことを躊躇っていたのに、御子柴マネージャーのお陰で吹っ切れた為、今は気まずさが残りつつも、迷いはなくなったので、早足で自動扉を通過する。
あれから、御子柴マネージャは万が一の事があっても全力でフォローすることをお約束してくれた。
だから、心置きなく楓様と接していけばいいと更に背中を押してくれたのだ。
本当に、あの方はどこまでも素晴らしく一生尊敬出来るお人であり、そんな方の期待に全力でお応えせねばと。私は拳に力を込めて、受付があるロビーへと足を運んだ時だった。
「……それじゃあ、予定通り総会でのプレゼンはお前に頼んだぞ」
「分かりました。既に準備は出来てるので、お任せください」
前方のエレベーターから出てきた東郷代表と楓様に遭遇してしまい、即座に背筋をピンと伸ばしてお辞儀をした。
まさかのタイミングに心拍数が上昇しながらも、私は視線を足下に落としたままお二人の会話に耳をそばだてる。
「そういえば、先方のお嬢さんは大分お前の事を気に入っているそうじゃないか。あの家柄を物に出来ればこちらにとっても大きな利益になる。だから、これからも引き続きあのお嬢さんを満足させてやることだな」
「ええ。重々分かってますのでご安心下さい」
お顔を拝見していないのでどんなご様子なのかは分からないけど、事務的な会話だけで分かる、なんとも冷めたお二人の関係性。
感情のない淡々とした東郷代表の口調と、普段とは違う何ともよそよそしい楓様の口調。
お二人は本当の親子なのに、これが家族の会話なのだろうか……。
そう思いながら、私は先程の御子柴マネージャーの話を思い出し、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
それから直ぐに東郷代表は楓様と別れ、足早にその場を後にしたのだった。
私もようやく顔を上げて、東郷代表の後ろ姿を見据えている楓様の横顔をじっと見つめる。
「……おい、人の顔をじろじろ見るな」
すると、こちらの存在に気付いたのか。
楓様は眉間に皺を寄せながら、呆然と立ち尽くす私を睨み付けてきた。
「も、申し訳ございません。あ、あのスーツとシャツのお届けに参りました」
私は慌てて体裁を整えて深々とお辞儀をすると、持っている物をお渡しする為に楓様の元へと駆け寄る。
それから上着を差し出すも、なかなか受け取ろうとしない楓様は、黙ってこちらに視線を向けると、不意に私に背を向けてその場から歩き始めた。
「ここじゃなくて、俺のデスクまで運べ」
そしてぶっきらぼうにそう言い放つと、来たエレベーターに乗り出し、私は慌ててその後を追いかけて、楓様のデスクまで向かったのだった。
__時刻は正午前を示すところ。
私はクリーニングが完了した上着を持って楓様がお勤めしているオフィスビルへと足を運ぶ。
これまで楓様に会うことを躊躇っていたのに、御子柴マネージャーのお陰で吹っ切れた為、今は気まずさが残りつつも、迷いはなくなったので、早足で自動扉を通過する。
あれから、御子柴マネージャは万が一の事があっても全力でフォローすることをお約束してくれた。
だから、心置きなく楓様と接していけばいいと更に背中を押してくれたのだ。
本当に、あの方はどこまでも素晴らしく一生尊敬出来るお人であり、そんな方の期待に全力でお応えせねばと。私は拳に力を込めて、受付があるロビーへと足を運んだ時だった。
「……それじゃあ、予定通り総会でのプレゼンはお前に頼んだぞ」
「分かりました。既に準備は出来てるので、お任せください」
前方のエレベーターから出てきた東郷代表と楓様に遭遇してしまい、即座に背筋をピンと伸ばしてお辞儀をした。
まさかのタイミングに心拍数が上昇しながらも、私は視線を足下に落としたままお二人の会話に耳をそばだてる。
「そういえば、先方のお嬢さんは大分お前の事を気に入っているそうじゃないか。あの家柄を物に出来ればこちらにとっても大きな利益になる。だから、これからも引き続きあのお嬢さんを満足させてやることだな」
「ええ。重々分かってますのでご安心下さい」
お顔を拝見していないのでどんなご様子なのかは分からないけど、事務的な会話だけで分かる、なんとも冷めたお二人の関係性。
感情のない淡々とした東郷代表の口調と、普段とは違う何ともよそよそしい楓様の口調。
お二人は本当の親子なのに、これが家族の会話なのだろうか……。
そう思いながら、私は先程の御子柴マネージャーの話を思い出し、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
それから直ぐに東郷代表は楓様と別れ、足早にその場を後にしたのだった。
私もようやく顔を上げて、東郷代表の後ろ姿を見据えている楓様の横顔をじっと見つめる。
「……おい、人の顔をじろじろ見るな」
すると、こちらの存在に気付いたのか。
楓様は眉間に皺を寄せながら、呆然と立ち尽くす私を睨み付けてきた。
「も、申し訳ございません。あ、あのスーツとシャツのお届けに参りました」
私は慌てて体裁を整えて深々とお辞儀をすると、持っている物をお渡しする為に楓様の元へと駆け寄る。
それから上着を差し出すも、なかなか受け取ろうとしない楓様は、黙ってこちらに視線を向けると、不意に私に背を向けてその場から歩き始めた。
「ここじゃなくて、俺のデスクまで運べ」
そしてぶっきらぼうにそう言い放つと、来たエレベーターに乗り出し、私は慌ててその後を追いかけて、楓様のデスクまで向かったのだった。