3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それまでの間、私達は一言も会話をせず、静かな通路を抜けて事突き当たりまで行くと、常務取締役と書かれた個室の扉前までたどり着いた。

二十代で大企業の役員になるなんて……。

御曹司を抜きにして、楓様は全てご自分の力で成り上がってきたと御子柴マネージャーは言っていた。

一体ここまで来るのにどれ程の努力をしてきたのか。
そう考えると、再び胸がじんわりと熱くなってくる。


そうこうしていると、楓様はさっさと部屋の中へと入っていき、はたと我に帰った私も慌てて一礼してから奥へと進む。

辺りを見ると、中はそれなりに広く、脇には応接用のソファーとローテブルがあり、窓際にはデュアルモニターが設置された長いデスクと壁沿いにシェフルが置かれているぐらいで、それ以外のインテリアは特になく、なんとも殺風景な作りだった。
 

「……あ、あの……」

部屋に入ってからも黙ったまま一向にこちらに背を向けてくる楓様に、私は段々と沸き起こってくる不安と恐怖を何とか払拭しようと、口を開いた時だ。

「悪かったな」

突然謝罪の言葉を言われ、私は何事かと目が点になる。

「……少しやり過ぎた」

そう仰ると、ようやくこちらに振り向いてくださった楓様は、眉間に皺を寄せながら不貞腐れ気味な表情を私に向けてきた。

まさか、謝られるなんて思ってもいなかった私は、暫く言葉が出て来ず、その場で固まってしまう。

「い、いえ!とんでもございません!私の方こそ取り乱してしまい本当に申し訳ございませんでした」

しかし、直ぐに我に帰ると、楓様に配慮して頂いているという事態が何とも恐れ多く、私は深く頭を下げた。
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