3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜



オフィスビルを出てホテルまで引き返す道中、私は悶々としながら視線を足下へと落として歩を進める。


なぜなのでしょう。

御子柴マネージャーの言うように、楓様に正直な気持ちをぶつけてから少しだけ距離が縮んだと思ったのに……。

楓様にもちゃんと配慮して下さる気持ちがあるのが分かって、信頼関係が築けられそうな兆しが見えてきた気がしたのに……。

最後の最後で言われた言葉が、それを全部覆されたようで、私の心は再び闇の中へと堕ちていく。


あれは、どうしても楓様にお伝えしたかった心からの言葉だった。

しっかりと分かって欲しい私の願いでもあったのに。


けど、楓様はそれを拒絶してきた。


何故あそこまで“幸せの権利”というもの忌み嫌うのでしょうか……。

あの方にとっての幸せという言葉は、一体どんなものなのでしょうか……。


幾ら思考を巡らせても、結局のところ私はまだまだ楓様のことを何も分かっていない。

確かに、今思えばほんの数回しか関わっていないくせに、楓様が仰る通り何と出しゃばった真似をしてしまったのだろうとつくづく思う。

きっと彼の生い立ちの話や、ご家族の方達の反応を見てきたので、それなりに理解していた気になっていたのかもしれない。

でも、彼が実際どれ程の闇を抱えているかなんて、まだまだこの程度じゃ知り得ることなんて不可能な筈なのに。


御子柴マネージャーが仰るように、なかなか一筋縄ではいかない状況に、私は自然と深い溜息が漏れ出てしまう。


一歩進んだと思ったら、また直ぐ一歩下がる。

つまりは、まだ何も進歩していないということになるのでしょうか……。


本当に楓様というお方は……
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