3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

「それにしても、本当に意外だよね。俺の周りでも君の事で騒いでる人結構いるのに。多分高嶺の花的な存在だから、皆んな気後れしてるのかなー」

そんな私を、今度は不思議そうな目で眺めてくる瀬名さんの言葉に、私はまたもや激しい動揺が走る。

「そ、そんな恐れ多いことを！私なんて世間知らずな…………ただの子供です」

まるで桜井さんと同じような事を瀬名さんにまで言われるとは思ってもいなかったので、私は再び全身に熱を帯びていくのを感じながら慌てて否定した直後、以前楓様に指摘された言葉が脳裏にふと浮かび、意気消沈して項垂れる。

「そんな事ないよ。天野さん今時珍しいくらい落ち着いてるし、気が利くし。だからバトラーにもなれたんじゃないかな？」

すると、沈んだ心を救うような瀬名さんの優しい心遣いが素直に嬉しくて、表情がみるみる明るくなっていく私。

けど、最後に言われた台詞に胸がちくりと痛み、笑顔が段々と萎れてきてしまう。
　
「いいえ、私はまだまだです。楓様との距離も、まだ全然掴めていませんし……」

愚痴をこぼすつもりはなかったのに、先程の出来事が蘇り、瀬名さんの顔を見るといけないと思いつつも勝手に口が動いてしまう。

「なかなか心を開いて頂けないし、歩み寄れたと思ったら、離れていって……。まさしく、楓様って一匹狼みたいなお方です」

……もしくは、人に全く慣れない野良猫とでも言うべきか……。

…………なんて。

お客様である前に経営者の方に対して何とも失礼な想像をしてしまったと、自分で自分を戒める。

とにかく、どう接すれば良いのか少しは分かってきたけど、それでもあまり成果が得られない現状に、私は無意識に深い溜息が漏れてしまった。