3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「天野さん大丈夫?東郷様のバトラーになってからずっと元気ないし、顔色も良くないし……」
弱音を思いっきり吐いてしまったが為に、とても心配そうな面持ちでこちらの顔色を伺ってきた瀬名さん。
初めての瀬名さんとのお食事なのに、こんな暗い雰囲気にさせてしまった申し訳なさと自己嫌悪に、私は慌てて顔を上げる。
「だ、大丈夫です!きっと時間が経てばそのうち慣れてくると思いますし、これからもっと頑張っていけばいいのですから!」
本当に、今は我武者羅に足掻いていくしかないと。
改めて自分にもそう言い聞かせて、私は瀬名さんに笑顔を向けた。
「あまり無理しないで、辛い時は言ってね。VIP階層組でこうやって気軽に話せるの俺ぐらいだろうし、相談にはいくらでも乗るから」
けど、そんな強がりを簡単に見抜かれてしまい、弱った心に瀬名さんの優しさが深く染み込んできて、思わず涙腺が緩みそうになる。
ダメです。
そんなに優しくされたら、益々勘違いしてしまいます。
ただでさえ、私はそういうことは何も分からないのに……。
瀬名さんの気遣いが一体何なのか、判断なんかつく筈もなく、優しくされる分だけ期待してしまうような単純な考えしか出来ないのに……。
このままだとどんどん深みにハマっていきそうで、私はつい視線を逸らして明後日の方向に目を向ける。
「あ、ありがとうございます。その時は是非お願いしますね」
目を合わせないでこんな事を言うなんて、瀬名さんの好意に対して何とも不自然で失礼だと思う。
表情が見えないから分からないけど、もしかしたら怪訝に思われているかもしれない。
でも、このまま彼の目を見続けていると、この想いが膨れ上がり益々後に引けなくなってしまいそうで怖い。
今は浮き足だっている場合じゃないのに……。