3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「あ、せ、瀬名さん。と、とりあえずサラダバー行きませんか?どんな種類があるのか見てみたいです」

私は気を紛らわすために、少し挙動不審になりながらも、一先ずこの空気を打開しようと席を立った。

「そうだね。行こっか」

そんな私の反応を不審がることもなく、瀬名さんは満面の笑みで頷くと、私達は貴重品を持ってサラダバーへと向かう。



「……ねえ、あそこの二人超美男美女カップルだよね」

「うん、なんか洗練されているっていうか、なんか私達とは別世界の人間って感じ」
  

それなのに、背後のテーブル席から聞こえてくる女性達の会話のせいで、引っ込めようとした想いが再び顔を出し始める。

今ここに居る男女のペアは私達しかいないので、おそらく、自分達の事を言われているのだと思うけど……。

美男美女と言われたのも恥ずかしいけど、“カップル”という言葉に過剰反応してしまった私は、せっかく意識しないようにと心掛けていたのに、今は瀬名さんとの会話に集中出来ないくらい鼓動が激しく鳴り響く。

何でもない関係なのに、こんな事で頭がパニック状態になってしまうなんて……。

瀬名さんは聞こえているのか、いないのか。
全く気にする素振りを見せる事なく、平然とした様子で目の前に並ぶ野菜を選んでいて、自分一人だけが舞い上がっている状況に、ほとほと嫌気がさす。
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