3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
楓様がいつもオーダーされるミニボトルのシャンパン。

かなりの辛口で、ブドウ本来の味わいが楽しめるのに加え、シャープな後味が癖になる代物だとお酒好きの方が教えて下さった。

私はお酒があまり得意ではないので、銘柄を見てもあまりピンと来なかったけど、いつもので分かるぐらい毎回オーダーされるということは、よっぽどお気に召しているのでしょう。

そうやって、専属バトラーとして少しずつ楓様のことを理解していきたいと思いながら、私は3121号室へと戻る。

いつものようにマスターキーで扉を開け、相変わらず業務に勤しんでいるのだろうと思いながら部屋の奥へと進んだ。


「……あら」

しかし、予想とは反し、ソファーに仰向けで寝そべり静かに寝息を立てている楓様が視界に映ると、その意外なお姿に一瞬呆気に取られた。

部屋を出てから三十分も経っていないのに眠ってしまわれるなんて、よっぽどお疲れだったのだろうか。

私は一先ずお持ちしたシャンパンとグラスをローテーブルに置くと、備え付けられているブランケットを持って楓様の元へと近寄る。

やはり、何度見てもお人形のような女性顔負けの美形顔に思わず息を呑んでしまう。

世の中男性でこんなに綺麗な方がいらっしゃるなんて。

とても冷めたお方だけど、それでもきっと楓様は女性社員に人気がおありなのでしょうと思いながら、ブランケットを掛けようと手を伸ばした瞬間だった。

「……!?」

突然目を大きく見開き、勢いよく私の手を払い除けてきた楓様に、私は驚いて身を引いてしまう。

「…………あ」

楓様も驚愕の眼差しを向けてきた直後、ふと我に返ると、首元に手をあてながら上半身をゆっくりと起こす。

「も、申し訳ございません。起こしてしまいましたか?」

完全に熟睡していたようにも見えたけど、睡眠の妨げをしてしまった事に私は深く頭を下げる。

「…………いや。気にするな」

しかし、楓様は咎めることはせず、ただ一点を見つめながら静かな口調でそう答えた。

私はその様子がどうにも気掛かりで、ブランケットを握る手につい力が入ってしまう。

先程の驚愕した目。
それと同時に垣間見えた、何かに怯えたような目付き。

一体、彼に何があったというのだろうか。

人に手を伸ばされただけでこんな反応を見せるなんて、尋常じゃない。

けど、今のこの関係性では理由を尋ねる事なんて当然出来る訳もなく、私はただ楓様の言うことに従うしかなかった。
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