3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「楓様、シャンパンをお待ちしましたが、もうお休みになられますか?」

とりあえず、業務的な言葉しか掛けられない現状に歯痒さを感じながら、せめて自分の中での最大限の優しい声で呆然とする楓様にお伺いを立てる。

「いや。少し目を閉じていただけだ。そのままにしとけ」

すると、程なくしていつもの冷めた態度に戻ると、楓様はソファーに座り直し、ローテーブルにあるシャンパンに手を伸ばす。

「お注ぎいたします」

しかし、そこはバトラーである私の役目なので、楓様より先にすかさずシャンパンを手に取り、栓を開けてゆっくりとグラスに注いだ。

「楓様はこちらの銘柄がお好きなんですね」

とりあえず、この重たい空気を何とかしようと、私はせっかくなので世間話程度に、口元を緩ませながら気になっていた話題に触れてみる。

「……別に。好きだから飲んでいるわけじゃない」

けど、場が和むような答えが返ってくるのかと思いきや、まさかの思いもよらない返答に、私はつい顔を上げてしまう。

危うく一定量を超えそうになり、なんとか直前でボトルの口を上げたので、溢すことを防げたことに胸を撫で下ろすと、楓様にグラスを差し出した。

「お好きでないのに、よくお飲みになられるなんて……何か思い入れでもおありなのですか?」

果たして私なんかがここまで踏み込んでいいものなのか内心不安に思い、顔色を伺いながら恐る恐る尋ねてみる。

「……まあ、そんなとこだ」

とりあえず、突っぱねられるような事はなかったけど、それ以上多くを語るつもりはないようで、楓様はそのまま黙ってグラスを口に運んだ。


この短い間で出来てしまった二つの疑問。

理解しようと試みたのに、全く逆の結果となってしまい、私は密かに肩を落とす。
< 76 / 327 >

この作品をシェア

pagetop