3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
……“楓”。

確か、楓の花言葉は……。

「美しい変化と、大切な思い出……」

ふと思い出した言葉を何気なく口にしてみた途端、楓様は驚いたような目でこちらを振り返り、不意をつかれた私は心臓が小さく跳ね上がった。

こんな反応を見せるなんて。
何かこの言葉に核心をつくものがあったのだろうか。

確か楓の花言葉は他にもあったと思うけど、どれも綺麗なものだった記憶がある。

だから、きっとその名前にも、私のように愛がこもっているはず。

「……あ、あの……。楓様もご自身のお名前はお好きなのですか?」

そう思い、私はおずおずと尋ねてみる。 

すると、今度は視線を下へと落とすと、何か思い詰めるように黙り込んでしまい、少しの間沈黙が流れる。

「……ああ。好きだよ」

そして、こちらに視線を戻したかと思えば、不意に見せてきた柔らかく優しい笑顔に、私は不覚にも思いっきり心を奪われてしまった。

「そ、それは素敵なことですね」

その瞬間、自分の顔が一気に熱くなるのを感じ、それを知られたくなくて、私は慌てて不自然に視線を逸らしてしまう。

「とりあえず、今日はもういいから。明日はまた寝てたら起こせ」

一方、楓様は全く気にする様子もなく、何事もなかったように普段通りの冷めた態度に戻ると、パソコンのキーボードを打ち始める。

「はい。かし……」

「それと、くれぐれもあのサイボーグ女の真似だけはするなよ」

私は指示に承諾しようと口を開いた途端、突然思い出したように楓様は眉間に皺を寄せ、険しい顔付きですかさず警告をしてきた。

それがとても悔しそうで、不貞腐れているような目で見てくるその表情が何だか可愛く思えてきて、つい口元が緩んでしまう。

「勿論です。ご安心ください」

だから、笑ってはいけないと戒めようとしたけど、どうにも抑えることが出来ず、私は笑みが溢れたまま首を縦に振ったのだった。
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