3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「天野さん、何だか嬉しそうだね?」
ルームサービスの提供が完了し、待機場所へと戻ろうとした途中、私の様子に気付いたフロント係の瀬名さんが微笑みながら声を掛けてくれた。
「……あ、はい。実は今しがた婚約祝いのサプライズケーキをご提供致しまして。お二人の幸せそうな雰囲気に感化されてしまったというか……」
感情がそんなに表に出てしまっていた事に恥ずかしさを感じながらも、先程の光景を思い出すとまた口元が緩んでしまう。
「天野さんは本当に人が好きなんだね。君みたいな人はホテルマンにピッタリだよ」
そんな私を相変わらずの穏やかな目で見て笑う瀬名さん。
その眩しい程の笑顔は、男性の免疫皆無の私にとって、なかなかに刺激的なものであった。
同期の瀬名颯斗さん。
私と同い年なのに一年早くこのVIP専用階のフロント係に配属され、同期の中では一番優秀だと周りから期待されていた。
ミスが少なく、どんなクレームやトラブルがあっても取り乱す事なくスマートかつ真摯に対応する。
加えて周りをよく見ていて、気配りも良く、優しくて協調性も抜群。
それに、瀬名さんは女性職員から騒がれる程に、短髪の爽やか好青年で端正な顔立ちをしている。
背も高い上に脚も長くてスラっとしているので、フロント係の花形的存在で、女性客にも人気だと言う噂は一般階層の私達にまで届く程だった。
そんな瀬名さんを、私は研修生時代から尊敬していて、時たま彼を見掛ける度に胸が高鳴る。
おそらく、これは恋心なのだろうと自覚している中、こうして同じ配属先になれた事は本当に嬉しかった。