3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

一先ず業務を終え、私はお仕事のお邪魔にならないよう静かに3121号室を出る。

それから扉に背中をくっつけてもたれ掛かり、小さく息を吐いた。

もはや、この部屋の前で立ち竦む事が日課となってしまった事を自覚しながらも、私は未だ高鳴り続ける鼓動を鎮めようと両手で胸をおさえる。

毎回楓様の部屋を出た後は疲労感が襲って来ていたのに、今日はいつもと違う、とても高揚とした気持ち。

あの楓様の笑顔を思い出すと、再び頬が熱くなってきて、身体の奥がむずむずしてくる。


これは、見事にやられてしまいました。

今までずっと冷めた態度で厳しい扱いしかされてこなかったのに、突然のあの笑顔は反則過ぎます。

しかも、いつも無機質な感じのお方が、あんな柔らかい表情を見せてくるなんて……。 


これまで散々過酷な状況に耐え続けてきた為、私にとってはあまりにも衝撃的過ぎて、暫くここから動く事が出来なかった。


けど、これで少しは楓様の事を知れた気がして、今度は違う意味で胸が熱くなる。

それに、ようやく彼の懐に踏み込む事が出来た達成感も湧いてきて、楓様のバトラーになってから初めて喜びを感じることに何だか感無量だ。

今日で分かったことは、楓様の更なる闇と、あのシャンパンには意味があることと、ご自身の名前をお気に召していること。

これだけではまだまだなのかもしれないけど、ゆっくりでも良いからもっと楓様に歩み寄る事が出来れば……。


そんな願いを込めて、明日も楓様にお仕えするために、私は改めて気合を入れ直す。
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