3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
あまり表情には出さないけど、やはり楓様は相当お疲れなのですね……。

確かに、ご自宅にも帰られないくらいなのだから、当然なのかもしれないですが。

夕食も軽めだったり、取らなかったりでまちまちですし……。 

楓様のお身体は本当に大丈夫なのでしょうか。


「白鳥様、楓様は昔からあのようにお忙しい方なのですか?」 

普段の働き具合はよく分からないけど、あの若さで取締役になられたのだから、これまでにも沢山の苦労があったはず。

そんな楓様の過去が益々気になり始めた私は、この際だから色々聞き出してみようと身を乗り出す。

「……そうですね。あの方は仕事をすることでご自分の価値を感じる人ですから」

白鳥様はまた一口とコーヒーを飲んだ後、ポツリと意味深な言葉を呟く。

「昔から人の何倍も働いて、優秀が故に逸脱した功績を積み、自力で年齢不相応の役職に就いた。けど、周囲の人間はコネだと言って認めない。そんなもの、どこにもないのに……」

そう仰ると、白鳥様は珍しく表情を崩すと、眉間に皺を寄せて小さく拳を握りしめる。

「本当にあの方は、どこに居たって敵に囲まれてばかりですよ」

そして、最後にはいつもの無表情へと戻り、呆れたように深い溜息をはいた後、どこか思い詰めるように一点を見つめた。


“どこに居たって敵に囲まれてばかり”

その言葉がずしんと心に重くのしかかり、私まで神妙な面持ちになって口を噤んでしまう。

それは東郷家でも、会社内でもという意味なのしょう。

つまり楓様には常に圧力がかかっていて、それに日々耐え続けているということでしょうか。

そんなお方のお側にいらっしゃる白鳥様は、これまでの経緯を全部ご存知なのでしょうか……。
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