3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……なんだよ。俺のいない所で随分と人のことベラベラと喋ってくれんな」

すると、背後から突然声が聞こえ、私は勢い良く振り向くと、そこにはズボンのポケットに片手を突っ込み、ビジネス鞄を提げながら不服そうな面持ちでこちらを睨んでくる楓様が立っていらっしゃった。

「いい歳こいて自力で起きれないわ、寝坊するわで待ちぼうけを食らっていたものですから。つい」

しかし、白鳥様は全く動じることなく、先程の熱いお気持ちは何処へやらと。いつもの無表情に戻り嫌味をたっぷり含めて反論する。

楓様は一体いつからそこにいらっしゃったのかは分からないけど、口振りから察するところ、それなりに私達の会話を聞いていたのかもしれない。

それなのに、この白鳥様の余裕っぷりには相変わらず驚かされる。

「悪かったな。いいから、さっさと行くぞ」

「あなたの仰る台詞ではございません」

「黙れサイボーグ」

そんな白鳥様に対し、楓様の舌打ちから始まったお二人の掛け合いが目の前で繰り広げられ、いけないと思いながらも、私はつい小さく吹き出してしまった。



「それでは、いってらっしゃいませ」


それから、ロビーの入り口まで付き添い、私は見送りの挨拶をして頭を深く下げる。

やはり、楓様から返事をもらう事はなく、振り返ることもせずに白鳥様と足早に会社へ向かう。

そんなお二人の後姿を見送りながら、私は暫くの間感慨に耽っていた。
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