3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
……私と楓様が良好な関係。

それは、本当に認めてもいいのでしょうか。

未だ心を見せず、語ることもないですが、確かに言われてみれば、笑顔を見せて下さったことと、名前を呼んで下さったことは、出会った頃に比べるとかなり大きな進歩です。

これは先の見えない不安な気持ちに駆られてばかりいるのではなく、今の現状をちゃんと見据えて認めることも大事なのかもしれない。

一度に多くを求めても仕方がないし、焦る必要なんて何処にもないのですから……。


「ありがとうございます、桜井さん。そう仰って頂けて少し自信に繋がりました」

これまでの事を見詰め直す良いきっかけになり、私は心から感謝の気持ちを伝える。

「美守先輩にそう言われるなんて感激です!っあ、そうだ。久しぶりにご飯行きましょうよ。私美守先輩に語りたいこといっぱいあるんで!」

そんな桜井さんの私に対する熱意はやはりとても恥ずかしいけど、彼女の真っ直ぐな気持ちが純粋に嬉しくて笑顔が零れた。

「是非お願いします。実は私も桜井さんに相談したいことがあって、今度予定を作るので連絡します」

そして、丁度いいタイミングで来た桜井さんのお誘いに、私はチャンスとばかりに積極的に話を進める。

「美守先輩が私に?……あ、もしかして瀬名先輩の事ですか?」

「は、はい!?」

すると、まさかの図星をつかれ、私は動揺のあまり思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

その反応が肯定であると認識されてしまい、またもや桜井さんの目が輝き始め、期待に満ちた眼差しを向けられてしまう。

「何か進展があったんですか!?まさかデートに誘われたとか!?」

この方はエスパーなのでしょうか。
もしくは、これが恋愛経験値の差なのでしょうか。

恐ろしいくらいに心中を当てられてしまい、私は否定する事も出来ず、ただ慌てふためくしか出来ない。

「と、とりあえずまだ勤務中なので、詳細は後で連絡します!そ、それでは、また」

だから、ここはもう強制的に話を終了させるしかないと思い、かなり不自然になりながらも無理矢理この場を切り上げると、私は逃げるように持ち場へと戻って行ったのだった。
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