3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
こうして私は、今まで以上に気合を入れて、マッサージ師の手配をしたり、厨房にメニューの要望を入れたり、当ホテルお勧めの入浴剤を厳選したりと、楓様に尽くす為に全力で職務に励んだ。
今日は楓様もゆっくり休息するようで、婚約者の方をお招きするような事はせず、お部屋でソファーに座りながら読書をされていた。
私はそんな楓様を横目に浴室へと入ると、お風呂にお湯を溜めながら、用意した入浴剤をゆっくりと注いで掻き回す。
これで私も少しは楓様のお役に立っていれば良いのだけど……。
そう思いながら、仄かに漂ってくるラベンダーの香に私も癒されながら、さらに癒し効果を高める為に似たよう香のアロマキャンドルを設置する。
これで楓様がお喜びになるかどうかは分からないけど、とりあえず自分の中での精一杯の演出を作り上げ、私は一人満足気に頷いた。
それから準備が終わり、お声掛けをしようと振り向いた瞬間、いつの間にやら浴室の入り口に立ってこちらをじっと見据えていた楓様と目が合い、私は驚きのあまり心臓が大きく跳ね上がった。
「す、すみません作業に集中していて気付きませんでした」
私は慌てて頭を下げると、楓様は尚も無表情でこちらに視線を向けてくる。
「……随分と楽しそうじゃん」
そして、見事に心境を言い当ててきて、図星を突かれた私の肩はぎくりと震えた。
「ええ。楓様がお喜びになるかは分かりませんが、このように尽くさせて頂けるのはとても嬉しいですから」
とりあえず、隠すことでもないので、私は柔らかく微笑みながら素直に自分の気持ちをお伝えした。
それから再び黙り込んでしまった楓様に、私は訳が分からず首を横に傾げる。
何か気に触るようなことでも申し上げてしまったでしょうか……。
なかなか返答が来ないことに、段々と不安な心境に駆られていく。
すると、突然私から視線を外し、急にこの場でワイシャツを脱ぎ始める楓様。
「……あ、あの、し、失礼しますっ!」
まさかここで服を脱がれるとは思ってもいなかったので、私は赤面になりながら慌ててこの場から逃げ出そうと駆け出す。
その瞬間、突如腕を掴まれ、何事かと振り向いた途端、妖しい笑みを浮かべながらこちらの視線を捉える琥珀色の目とかち合った。