らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 旅をしていると、目を覚ました時、自分がどこにいるのかわからなくなる。
 ホムラに話すと、仏頂面のまま「旅をする者は皆そうですよ」と言ったのが、癪に障る。
 考えてみると、鈴は旅をしたことがなかった。

 目を覚ますと、すぐに自分の生家…しかも自分の部屋で寝ているとわかって。
 身体がすぐに起き上がれなかった。
 悲しい…という感情はとっくに捨てたはずなのに。
 いつもの調子が出てこない。

 執事が当然のように鈴の身支度を手伝おうとしたのを断って。
 顔を洗い髪を櫛でとかして、騎士団の制服に着替えた。
 昨日暗かった部屋が日光に照らされて、幼い頃に戻ったような気分になった。
 机と、本棚、壁に貼り付けてある世界地図。

 部屋を出ると、ホムラが「おはようございます」と挨拶してきたので鈴は「おはよ」と短く言った。
「これから、両親と朝食を食べる」
 鈴が説明すると、ホムラが立ち止まった。
「では、後ほどまた来ます」
 ホムラは久しぶりの親子水いらずのところを邪魔すると悪いと思って言ったのだが。
 あいにく鈴はわかってないので「どうしてだ?」と首を傾げた。

「おまえ、せっかく私を待っていてくれたのだろ。一緒に朝食を食べればいい」
 鈴がすたすたと歩いて行ってしまうので、ホムラが慌てて後をついて行く。
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