らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 鈴の頭の中で、走馬灯のように旅での場面が一気に流れる。
 スパイ…という言葉に思い当たる人物は一人しかいない。
 最初から、旅の目的はコレだったのか…
 何故、自分は気づかなかったのか。
 何故、ドラモンド侯爵は言わなかったのか。

「私にはごく普通の娘さんにしか見えませんでしたわ」
 母の発言に、父は「おまえは黙ってなさい」と冷たく言い放った。
 両親は昨日、聞かされていたのだろう。
 ホムラの表情はいつもどおりの仏頂面だが、恐らく知っていた。

 自分だけが仲間外れにされ、何一つ知らなかったのだ。

 たらりと鈴の額に一筋の汗が流れた。
 嫌な予感の正体はコレだったのか。
「他国のスパイだと気づかずに国家騎士団に所属させているのは…国の落ち度でもあります。常に危機感を持って人物を見極めるべきかと」
 鈴は喉がぎゅっと締め付けられるような感覚になった。
 声が出ない。
 隣に座る偉大なるドラモンド侯爵を尊敬しているのだが。
 この場をすぐにでも逃げ出したくなってしまった。
 ドラモンド侯爵が何を考えているかなんて、すぐに理解できる。
 しん…と静まり返った空間で。
 ドラモンド侯爵は姿勢を正した。

「ネズミは始末させていただきます」
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