らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 ドラモンド侯爵は後ろに立っていたホムラに「行け」と命令した。
 ホムラは「御意」と言って部屋を出て行く。
 ぽかんとしていた鈴だが、我に返って勢いよく立ち上がった。
「始末する必要があるのでしょうか? 相手はあなたのご友人であるツバキ団長の…」
「おや、いつから鈴は気づいていたのかな」
 真剣な表情をしていたドラモンド侯爵は鈴を見て、にっこりと笑った。
 その笑顔があまりにも不気味だったので、鈴はひるんだが。
 まっすぐに立ってドラモンド侯爵を見た。
「やはり、ご子息は賢いですな」
 鈴を無視して、ドラモンド侯爵は鈴の父に向かって言った。
「……」
 父はちらりと、鈴を見たが黙ってお茶をずずっ…と飲み込む。

 こんな感情になるのは、いつ以来か。

 父とドラモンド侯爵が一緒にいるせいなのか。
「残酷」という言葉は、過去に捨ててきたはずなのに。
「今、始末する必要があるのですか?」
 思わず口から零れた言葉に、ドラモンド侯爵が「おやおや」と言った。
「どうしたんだい? 鈴。おまえがそんなことを口走るとは」
 ドラモンド侯爵は鈴を見て「まあ、座りなさい」と優しく言った。

 ドラモンドの笑顔が…その優しさが。
 今までの生活の中で一度も思わなかった恐怖が一気に爆発した。

「間違っています」

 鈴は口に出して「しまった」と思ったが。
 それよりも早く、部屋を飛び出した。
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