らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 廃墟のような空間に。
 ボクシング用のリングがあって。
 白雪姫が丸太に括り付けられ、ぐったりとしていて。
 美女を脇に抱きかかえたキモいおっさんがジェイを睨みつけている。
「この男を返してもらいたかったら、格闘技で5勝してもらう」
「それが、この村での収入資源か…」
 ジェイが真面目に言っているけど。
 ちょっと視点ずれてません?

 帰ろうと思ったけど、あれよあれよとマッチョ集団に囲まれた私とシナモンは。
 リング下にまで追いやられた。
「おまえが負けたら、おまえの連れの女2人をこっちで引き取る」

 …は?

 キモいおっさんの言葉に「はああ!?」と悲鳴をあげた。
「ジェイ、あんた。まさか私とシナモンを売るの?」
 リング上にいるジェイに言ったが、周りのヤジで本人に聞こえるわけはなく。
 ジェイは勝手に上着を脱ぎ捨てこっちに投げ飛ばしてきた。
「俺が負けるわけないだろ、な、ミュゼ」
 自信に満ち溢れたジェイの言葉に「うん、そうだよね」と素直に頷いた。

「庶民っていうのは、衛生的にばっちいところで試合をしているのかあ」

 この場でどう見ても場違いな声が聞こえたので振り返ると。
 いつのまにか、鈴様とホムラさんが立っている。
「なんでいるんです?」
「……」
 話しかけても無視してくるホムラさんに、さすがにカチンとした。
「ミュゼ様…格闘技というのは、一体」
 不安そうにシナモンが話しかけてくる。
「簡単に言えば、殴る蹴るの喧嘩みたいな? 武器を使うのはルール違反。こういう違法地帯では、勝敗の商品として人身売買が行われているのが現実なんだよね」
 シナモンは「お詳しいですね」と感心している。
 いや、人身売買がまさか自分に降りかかろうとしているとは。
 今頃になって足ががくがくと震えてきた。
 
 むせかえるような汗の匂いと熱気。
 ドラモンド侯爵が指示して調査しろという村なのだから。
 問題があるとは思っていたけど。
 格闘技で村を活気付けて、負けた者は人間を差し出す。
 完全なる違法地帯。
 邪悪、悪質。
 なのに、この村は野放し状態。
 騎士団の人間が足を踏み入れているというのに、誰も脅えることもない。
 むしろ良い餌が入ってきた…ぐらいにしか見ていない。

 熱気と匂いで吐き気を感じると。
 心臓がばくん、ばくんと強くなるのを感じた。
 ジェイが負けるわけないとわかっているのに。
 不安になるのは・・・
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