らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 何が起きたのかわからなかった。
 1秒もかかっていない。
 試合開始の合図と共に、ジェイが倒れた。
 それが、事実だった。

 リングに、キモ男と露出の激しい美女が立ち上がると。
「おまえらの負けだ。そこの女どもリングに上がれ」
 勢いよくキモ男が私を指さした。
 思わず「ぎゃあ」と言うと周りにいた野郎どもはニヤニヤと私を見るではないか。
 右、左、前にはキモ男が見下ろしている。
 どんっと後ずさった際、ぶつかって振り返れば。
 鈴様がいたので、
「たすけて…」
 と消えそうなくらいの声で言う。
 心臓のバクバクとした音は自分でも気持ち悪いほど大きくなっている。
 鈴様は場違いな人間として異質なオーラを放っていたが、
 綺麗な顔をして。

「おい、おまえたち。呼ばれてるんだから早く行ったらどうだ」

 どおーんという衝撃が体内に走った。
 この男は本当に、本心で言っているのか。
 ここまで馬鹿な坊ちゃんなのか…

 隣にいた常識人であるホムラさんに助けを求めると、目が合った途端に、わかりやすいようにそらされた。

 もう、無理だ…
 半分パニックになっている私は、短剣を掴んでいた。
 もう、無理。
 もう、駄目。
 私は、もう価値がない・・・

 震える手で短剣を抜こうとすると、ふわりと手を掴まれた。
「ミュゼ様、わたくしが奴らの注意を引き付けますから、その際。お逃げください」
 周りのヤジに負けないくらいの声でシナモンが言うと。
 シナモンは、リング場へよじ上っていく。
「だめ、シナモン。行ったら、駄目」
 叫んだのも、虚しく。
 目の前の野郎が行く手を阻んだ。

 シナモンはリング上に立った。
「お嬢ちゃん、まずはお近づきの印に、脱いでもらおうか」
 キモ男の言葉に、周りが「うぉー」と拳をあげて歓声をあげる。
 シナモンは、エプロンを脱ぎ捨てた。
「いや、シナモン。駄目、やめて」
 リングに近寄ろうとすると、野郎たちに阻まれる。

「やめて」
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