らんらんたるひとびと。~国内旅編~
かつて任務の途中で寄ったことのある旅館は。
怪我に効く温泉で有名だ。
かつて、私は大怪我をした際。国中の湯治をしていたけど。
この温泉はとにかく効果あるように感じた。
女将さんは良い人で、20代かと思いきや40代後半っていうからビックリだし。
喧噪な空気ではない、山の空気は傷を癒すにはもってこいだ。
部屋は大部屋で、6人が雑魚寝するには充分な広さだった。
「ここは、混浴があるから楽しくてしょうがないなあ」
ニヤニヤヘラヘラ。
顔は殴られて痛々しい見た目だというのに。
白雪姫は心から幸せそうな笑顔を見せている。
「温泉というのは、そんなに凄いものなのか」
鈴様は、きょとんとしながらホムラさんに質問している。
本当にこの坊ちゃんは相部屋で大丈夫なのだろうか。
「やい、鈴ちゃん。おいらが温泉のノウハウを教えてやらあ」
と白雪姫が鈴様を指さした。
鈴様は「鈴ちゃん」と呼ばれたのが気にくわないのか、白雪姫を睨みつけている。
白雪姫は、未だにどんよりとした空気感をどうにかしたいと考えているのだろう。
「ホムラ、行くぞ」
白雪姫を無視した鈴様はホムラさんに声をかける。
「私は…後でいいです。鈴様も、一人で温泉に入れない…わけじゃないですよね?」
「なっ! 温泉くらい一人で行ける!!」
鈴様が大声を出すと。
音を立てて部屋から出ていく。
「ミュゼは、どうする?」
ジェイがこっちを見て言った。
「白雪姫に覗かれたくないから、後で入るわー。行ってらっしゃい」
と、手をひらひらさせた。
部屋に残ったのは、私と、シナモンと、ホムラさんだけだ。
「シナモンも、入ってくれば?」
端っこで正座しているシナモンに言うと。
シナモンは首を横に振る。
「わたくし…浴場が無理なので」
「うん…? 浴場が無理っていうのは・・・」
シナモンをじっと見て。
そういえば、シナモンは浴槽だか水槽だかに閉じ込められたと言っていたのを思い出した。
「あ、そ・・・そうだったね。ごめんごめん」
慌ててシナモンから目をそらす。
一気に静まり返った空気感。
窓の外を眺めると、川が見えた。
「ホムラ様、先日は助けていただきありがとうございました」
窓から目をそらすと、シナモンがホムラさんに頭を下げている。
ホムラさんは表情を変えず、じっとシナモンを見ている。
「先日だけではなく、花嫁選抜大会でもミュゼ様を助けていただいたそうで、心から感謝いたします」
畳…という珍しい敷物の上に私たちは靴を脱いで座っている。
旅館は土足厳禁。
シナモンは頭を上げるとホムラさんをじっと見た。
「おひとつお聞きしたいのですが、どうして私たちを助けてくれたのですか?」
それ訊いちゃう!?
シナモンは屈託のない表情でホムラさんを見ている。
ホムラさんは、はあ…とため息をついた。
「貸しを作ってやっただけだ」
「貸し? 貸しというのは」
ホムラさんは正座していた足を崩して胡坐をかく形をとると、シナモンを見た。
「鈴様はいずれにしても、おまえたちに迷惑をかける」
「ああ、だから。そういうことですね」
シナモンがにこにこしているのを見て。
意外と、ホムラさんって面と向き合うと喋ってくれるんだ…と気づいた。
「鈴様が迷惑をかけるのならば、わたくしも『民間人』だから迷惑をかけると思いますが…どうぞ、この旅ではよろしくお願いします」
シナモンは民間人という言葉を強調して言った。
完全なる嫌味だ。
鈴様とシナモンのどっちが迷惑かけているかと言えば完全に鈴様だろうな。
ホムラさんは目を丸くしていたけれど。「ああ」とだけ言って目をそらした。
怪我に効く温泉で有名だ。
かつて、私は大怪我をした際。国中の湯治をしていたけど。
この温泉はとにかく効果あるように感じた。
女将さんは良い人で、20代かと思いきや40代後半っていうからビックリだし。
喧噪な空気ではない、山の空気は傷を癒すにはもってこいだ。
部屋は大部屋で、6人が雑魚寝するには充分な広さだった。
「ここは、混浴があるから楽しくてしょうがないなあ」
ニヤニヤヘラヘラ。
顔は殴られて痛々しい見た目だというのに。
白雪姫は心から幸せそうな笑顔を見せている。
「温泉というのは、そんなに凄いものなのか」
鈴様は、きょとんとしながらホムラさんに質問している。
本当にこの坊ちゃんは相部屋で大丈夫なのだろうか。
「やい、鈴ちゃん。おいらが温泉のノウハウを教えてやらあ」
と白雪姫が鈴様を指さした。
鈴様は「鈴ちゃん」と呼ばれたのが気にくわないのか、白雪姫を睨みつけている。
白雪姫は、未だにどんよりとした空気感をどうにかしたいと考えているのだろう。
「ホムラ、行くぞ」
白雪姫を無視した鈴様はホムラさんに声をかける。
「私は…後でいいです。鈴様も、一人で温泉に入れない…わけじゃないですよね?」
「なっ! 温泉くらい一人で行ける!!」
鈴様が大声を出すと。
音を立てて部屋から出ていく。
「ミュゼは、どうする?」
ジェイがこっちを見て言った。
「白雪姫に覗かれたくないから、後で入るわー。行ってらっしゃい」
と、手をひらひらさせた。
部屋に残ったのは、私と、シナモンと、ホムラさんだけだ。
「シナモンも、入ってくれば?」
端っこで正座しているシナモンに言うと。
シナモンは首を横に振る。
「わたくし…浴場が無理なので」
「うん…? 浴場が無理っていうのは・・・」
シナモンをじっと見て。
そういえば、シナモンは浴槽だか水槽だかに閉じ込められたと言っていたのを思い出した。
「あ、そ・・・そうだったね。ごめんごめん」
慌ててシナモンから目をそらす。
一気に静まり返った空気感。
窓の外を眺めると、川が見えた。
「ホムラ様、先日は助けていただきありがとうございました」
窓から目をそらすと、シナモンがホムラさんに頭を下げている。
ホムラさんは表情を変えず、じっとシナモンを見ている。
「先日だけではなく、花嫁選抜大会でもミュゼ様を助けていただいたそうで、心から感謝いたします」
畳…という珍しい敷物の上に私たちは靴を脱いで座っている。
旅館は土足厳禁。
シナモンは頭を上げるとホムラさんをじっと見た。
「おひとつお聞きしたいのですが、どうして私たちを助けてくれたのですか?」
それ訊いちゃう!?
シナモンは屈託のない表情でホムラさんを見ている。
ホムラさんは、はあ…とため息をついた。
「貸しを作ってやっただけだ」
「貸し? 貸しというのは」
ホムラさんは正座していた足を崩して胡坐をかく形をとると、シナモンを見た。
「鈴様はいずれにしても、おまえたちに迷惑をかける」
「ああ、だから。そういうことですね」
シナモンがにこにこしているのを見て。
意外と、ホムラさんって面と向き合うと喋ってくれるんだ…と気づいた。
「鈴様が迷惑をかけるのならば、わたくしも『民間人』だから迷惑をかけると思いますが…どうぞ、この旅ではよろしくお願いします」
シナモンは民間人という言葉を強調して言った。
完全なる嫌味だ。
鈴様とシナモンのどっちが迷惑かけているかと言えば完全に鈴様だろうな。
ホムラさんは目を丸くしていたけれど。「ああ」とだけ言って目をそらした。