らんらんたるひとびと。~国内旅編~
私が頼まれていたのは、お客さんをご案内してお茶菓子を出すだけ…のはずなのに。
私は、高級ソファーに座らされ。
目の前には鈴様、隣にはドラモンド侯爵が遠慮がちに座っている。
鈴様の背後に、無表情のホムラさんがいてマントを脱いで姿勢よく立っている。
私が持ってくるはずだったお茶菓子を先輩が持ってきてくれて机に並べてくれた。
「今、町で人気の焼き菓子だよ。紅茶は東部から取り寄せた」
綺麗に盛られたクッキーやらマドレーヌを見て、ドラモンド侯爵は嬉しそうに笑った。
そういや、ドラモンド侯爵はこう見えて甘いものが大好物だそうだ。
完全なる場違いの私は、居心地悪くどこに視点を合わせていいのかわからず、とりあえずお菓子を眺めていた。
ドラモンド侯爵は、紅茶を一口飲んで「うまい」と言った後。
お菓子には手をつけずに、ツバキ団長を見た。
「まだ、公表はされてないが、東部のアームストロング侯爵のご令嬢、アスカ殿が落石事故で亡くなった」
ぽかん。
効果音をつけるなら、そんな音だと思う。
あっさりと人の死を告げられて、私は「そうですか」と言えるほど強くはない。
隣に座っているツバキ団長を見ると、苦いものを食べたような表情をした。
あの、性格おブスなアスカ嬢が死んだ・・・
あんだけメンタル強ければ、死ななそうなのに。
嫌がらせばっかしてきたアスカ嬢がもうこの世にはいないのかと思うと。
変な気分だ。
目の前にいる鈴様を見たけれど、デレデレした顔でドラモンド侯爵を見ている。
婚約者が亡くなったというのに、無関心にもほどがある。
「残念だが、鈴の婚約者はアスカ殿ではなく、西部のヒナタ伯爵令嬢になった」
「そうか」
ツバキ団長は頭を抑え込んだ。
一瞬だけ苦しそうな表情を見せたツバキ団長はすぐさま「それで?」と切りかえる。
「わざわざ、ここまで来たということは何かお願いごとでもあるんだろ」
感動の再会を喜んでいたツバキ団長の顔は、敵に殺意を向けるような…そんな態度になった。
ああ、早くここから出て行きたい。
太ももに乗せていた手のひらにぎゅっと力を入れる。
「さすが、ツバキ。私からお願いがあるんだ」
ドラモンド侯爵は茶目っけたっぷりに言った後、私のほうを見た。
その視線はあまりにも冷たくて、ぞっとした。
「私は息子の鈴が結婚をしたら、隠居しようと思っていてね。田舎で静かに暮らそうと思ってる。ほら、お嫁さんが気を遣うだろ、夫の親が近くにいたらさ」
「まだ、引退する年齢でもないだろ。おまえが引退する年齢だと言うなら、私はどうなる…」
確かに、ドラモンド侯爵は、まだ40代だ。
ツバキ団長の言う通り、リタイアするような年齢じゃないと思うけど…。
ドラモンド侯爵は微笑むと、鈴様を見た。
「ただ、現状の鈴に家督を譲ることは出来ない…というより、無理と言っていい」
ドラモンド侯爵の言葉に、鈴様は身体を縮こませて「すいません」と謝った。
「鈴は世間を知らない。庶民の暮らしがわからない。人の苦しみを理解してやれない。なにより…女性の接し方がわかっていない」
否定的な言葉に、鈴様は顔を真っ赤にして震えている。
誰がどうみてもお坊ちゃまの鈴様を、ドラモンド侯爵は理解していらっしゃる。
「このまま、ヒナタ殿と結婚しても、うちは滅茶苦茶になるのは目に見えてる」
私は心の中で合掌する。
同情するよ、ドラモンド侯爵。
「そこで、私は考えた。鈴に旅をさせようと。ほら、可愛い子ほど旅をさせろって言うだろ」
ツバキ団長は姿勢を崩さないまま、ぴんっと背筋を伸ばしてじっと話を聞いている。
会話についていけないまま、クッキーを眺めていると。
「そこで、今回の旅にそちらのお嬢さんもご同行させたいと思ってね」
「へ?」
私は、高級ソファーに座らされ。
目の前には鈴様、隣にはドラモンド侯爵が遠慮がちに座っている。
鈴様の背後に、無表情のホムラさんがいてマントを脱いで姿勢よく立っている。
私が持ってくるはずだったお茶菓子を先輩が持ってきてくれて机に並べてくれた。
「今、町で人気の焼き菓子だよ。紅茶は東部から取り寄せた」
綺麗に盛られたクッキーやらマドレーヌを見て、ドラモンド侯爵は嬉しそうに笑った。
そういや、ドラモンド侯爵はこう見えて甘いものが大好物だそうだ。
完全なる場違いの私は、居心地悪くどこに視点を合わせていいのかわからず、とりあえずお菓子を眺めていた。
ドラモンド侯爵は、紅茶を一口飲んで「うまい」と言った後。
お菓子には手をつけずに、ツバキ団長を見た。
「まだ、公表はされてないが、東部のアームストロング侯爵のご令嬢、アスカ殿が落石事故で亡くなった」
ぽかん。
効果音をつけるなら、そんな音だと思う。
あっさりと人の死を告げられて、私は「そうですか」と言えるほど強くはない。
隣に座っているツバキ団長を見ると、苦いものを食べたような表情をした。
あの、性格おブスなアスカ嬢が死んだ・・・
あんだけメンタル強ければ、死ななそうなのに。
嫌がらせばっかしてきたアスカ嬢がもうこの世にはいないのかと思うと。
変な気分だ。
目の前にいる鈴様を見たけれど、デレデレした顔でドラモンド侯爵を見ている。
婚約者が亡くなったというのに、無関心にもほどがある。
「残念だが、鈴の婚約者はアスカ殿ではなく、西部のヒナタ伯爵令嬢になった」
「そうか」
ツバキ団長は頭を抑え込んだ。
一瞬だけ苦しそうな表情を見せたツバキ団長はすぐさま「それで?」と切りかえる。
「わざわざ、ここまで来たということは何かお願いごとでもあるんだろ」
感動の再会を喜んでいたツバキ団長の顔は、敵に殺意を向けるような…そんな態度になった。
ああ、早くここから出て行きたい。
太ももに乗せていた手のひらにぎゅっと力を入れる。
「さすが、ツバキ。私からお願いがあるんだ」
ドラモンド侯爵は茶目っけたっぷりに言った後、私のほうを見た。
その視線はあまりにも冷たくて、ぞっとした。
「私は息子の鈴が結婚をしたら、隠居しようと思っていてね。田舎で静かに暮らそうと思ってる。ほら、お嫁さんが気を遣うだろ、夫の親が近くにいたらさ」
「まだ、引退する年齢でもないだろ。おまえが引退する年齢だと言うなら、私はどうなる…」
確かに、ドラモンド侯爵は、まだ40代だ。
ツバキ団長の言う通り、リタイアするような年齢じゃないと思うけど…。
ドラモンド侯爵は微笑むと、鈴様を見た。
「ただ、現状の鈴に家督を譲ることは出来ない…というより、無理と言っていい」
ドラモンド侯爵の言葉に、鈴様は身体を縮こませて「すいません」と謝った。
「鈴は世間を知らない。庶民の暮らしがわからない。人の苦しみを理解してやれない。なにより…女性の接し方がわかっていない」
否定的な言葉に、鈴様は顔を真っ赤にして震えている。
誰がどうみてもお坊ちゃまの鈴様を、ドラモンド侯爵は理解していらっしゃる。
「このまま、ヒナタ殿と結婚しても、うちは滅茶苦茶になるのは目に見えてる」
私は心の中で合掌する。
同情するよ、ドラモンド侯爵。
「そこで、私は考えた。鈴に旅をさせようと。ほら、可愛い子ほど旅をさせろって言うだろ」
ツバキ団長は姿勢を崩さないまま、ぴんっと背筋を伸ばしてじっと話を聞いている。
会話についていけないまま、クッキーを眺めていると。
「そこで、今回の旅にそちらのお嬢さんもご同行させたいと思ってね」
「へ?」