らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 名前さえ知らない貴族の婦人。
 貴族というのは、気まぐれで我儘。
 現に、鈴様が良い実例だ。

 庭園から酔っ払いの笑い声が聞こえてくる。
 優雅に婦人は、扇子を仰いでいる。
 姿勢よく座っている鈴様は、どうしてそんなに大人しく座っているのだろう…

「もう一度、言います。主人を返していただきたい」

 大声で言うと。婦人は、扇子を折り畳んだ。
「わたくし、誰かに命令されるのは嫌いですの。お帰りになって」
 …脳内でブチブチと血管が切れるような音がする。
 どうして、こんなに貴族というのは偉そうな態度を取るのか。
 世間一般で言う常識があまりにも通用しない。
 同じ国で過ごしているのに、貧富の差なんてあまりにもかけ離れていて。
 目の前に座っている2人は遠い…。

「何をしているの、あの女をつまみ出して」
 顎をくいっと動かして婦人が合図すると、
 近くにいた執事がこっちに向かってくる。

「ミュゼに手を出すんじゃねー」

 勢いよく後ろからやって来たジェイが駆け寄ると、
 見事なくらいの飛び蹴りをかわした。
 執事は吹っ飛ばされる。
「誰よ、あんた! 顔はいいからって。うちの執事を・・・誰か来てー。こいつらをつかまえてー」
 …ジェイを見て顔は良い…と吐き捨てる婦人にシナモンがクスクスと笑う。
 一大事だというのにこの子は笑うだけの余裕があるのか。

 この屋敷で護衛をしている人間がぞろぞろとやって来た。
 どこに隠れていたのだろう。
 予想以上に人数が多かったので、思わず両手をあげてしまう。
 ジェイは剣を鞘から抜き取った。
「国家騎士団なめんじゃねー!」
 ジェイが叫ぶ。
 緊急時だというのに、私の脳内は冷え切っていた。
 なんで、戦わなきゃいけないんだろう。
 そもそも、鈴様が自力で戻ってくればいいだけの話のに。

 横目でチラリと鈴様を見ると。
 無表情で座っている。
 あんたがさっさと婦人から逃げ出せば、こんなことにはならなかったというのに。

 相手は10人以上はいる。
 完全に包囲された。
「ジェイ、ホムラさんは?」
「応援呼んでくるって言ってた」
 じりじりと詰め寄られていく。
 その間、婦人は「アハハハハ」と高々と笑い出した。
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