らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 いつのまにか、音楽が止まっている。
 外の笑い声だって聞こえない。
 この貴族の家の騎士たちに取り囲まれ。
 じりじりと追い詰められていく。
 念のため、持ってきた護身用の短剣を出すけど。
 私はあまり戦闘経験がない。
 だって、事務職だもの。

 なんで、こんな目に遭わなきゃいけないのか。
 ジェイが「おりゃー」という雄たけびをあげて敵に向かって剣を振り回す。

「おい、そこまでにしておけ」

 扉のほうからホムラさんの声が聞こえた。
 …間一髪。

 ホムラさんを筆頭に、わらわらと人が入って来る。
 どこかの騎士団なのか。
 あっという間に敵の騎士たちを捕らえた。
 ホムラさんと一緒にやって来た騎士たちの制服を見て、「あれ?」と思ってしまう。
 応援に来てくれたのは、恐らくゴディファー侯爵家の騎士だ。
 薄暗いけど、エンブレムには見覚えがある。
 ゴディファー家の騎士たちは手際よく敵を連れ去ってしまったので。
 目の前にいる婦人は「なんなの、あんたたち!」と絶叫する。

「俺達は、国家騎士団だ! 制服みりゃわかんだろうが!」
 興奮気味に叫ぶジェイに、私は心からげんなりとした目で見てしまう。
 相変わらず、鈴様はきょとんとしながらソファーに座っている。

「私が何したっていうのよ!」

 立ち上がってわめきちらす婦人を見て。
 …確かに、何かしたわけでもないよなあと疑問に思ってしまう。
 別に罪を犯したわけではない…。

「この私を独り占めしようと思うことが罪だろう」

 なんちゅーキザなセリフだよ! と思ったけど。
 鈴様だから許されるのだと思う。
「あっ」と声を漏らす間もなく。
 鈴様は立ち上がると同時に、
 婦人を剣で刺したのだった。
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