らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 この旅の目的は、鈴様が侯爵になるにあたって。
 庶民の生活を体験し、触れ合うことで、常識や教養を得ていく…と。
 改めて考えると、心から「しょうない」旅だと思う。

 ドラモンド侯爵は、私が日頃、国中を旅しているから。
 ついでに皆で旅すればいいさって言っていたけど。
 目の前に倒れた貴族の女性を見て。
 ああ、目的はこっちだったのかと。
 冷ややかに見てしまう。
 婦人は、目の前で屍になってしまった。

 呆然と見つめていると。
 シナモンは後ろを向いた。
 すかさず、ジェイが上着を脱ぐとシナモンの頭に被せた。
「シナモンさんは外に出よう。見ちゃ駄目だ」
 ジェイがシナモンを連れて外に出ていく。
 シナモンのように脅える…のが普通なんだろうな。

「ホムラ、見たか? 私の腕前を」
 目をキラキラさせながら鈴様は、ホムラさんのところへ近づく。
 ホムラさんは、じい…と鈴様を見て。
「流石ですね」
 と無表情で言った。

 あれだけ、高飛車に騒いでいた人間が。
 一瞬で目の前に横たわっている。
 くるりと、背を向けて。
 歩き出す。

 旅の目的はこっちだったのか。
 ドラモンド侯爵が与えたのは、こっちだったのか。

 鈴様の成長を見守る旅…と同時に。
 ドラモンド侯爵が指定した人物を暗殺する。
 スラム街で聞こえた拳銃の音。
 目の前で横たわる貴族の女性。

 ああ、なんで今気づいてしまうのか。
 しょうもない。
 ああ、なんか腹立つ!
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