らんらんたるひとびと。~国内旅編~

ミュゼ・キッシンジャーという人間

「いやあ、ミュゼさん、大胆にもほどがありますなあ」

 一行は、南に向かって着実に足を進めている。
一面の田園風景の中、私たち一行は足を進めていく。
 気持ちの良い快晴の下、
 白雪姫はニタニタと笑いながら、私の回りをスキップした。
 まさか、白雪姫にキスしているところを見られたとは…
 白雪姫は、自由行動になると。
 たいてい、昼寝しているか、女の子と遊ぶかのどちらかで。
 あの時間帯だったら、てっきり部屋で寝ているのかと思っていたのに…

 いつもだったら、蹴りを一発入れれば済むことなのに。
 自分が悪い? という気持ちが大きいので、私は何も言い返すことが出来ない。
 いつも私が虐めているので。
 私がミスをすると、ここぞとばかりに、からかってくる白雪姫。
「おい、白雪。そこらへんにしとけ」
 ジェイが見かねて、白雪姫の肩をぐっと掴んで後ろにおいやった。

「ちぇっ。ジェイのそういう優しいところはよくないんだぞ!」
 とぶーぶー言いながら。
 次の瞬間には、白雪姫はシナモンとお喋りをしている。

 私の隣にジェイ、
 後ろにはシナモンと白雪。
 後方には鈴様とホムラさんが歩いている。

「なあ、ミュゼ」
 改まった口調で、ジェイに呼ばれるときって嫌な予感しかない。
「なに」
 低い声が出てしまう。
 ころっ…とつま先に小石が当たって。
 ころころと前方に転がっていった。

「大丈夫、なのか?」

 ほらね、やっぱり。
 私は、あーと声を漏らして、苦笑いする。
 心配性のジェイは、兄のようであり時には保護者のようになる。
「あいつと、恋愛体験なんてさ…」
「大丈夫だよ。これも、任務ですから」
 明るく言ったつもりだけど。
 ジェイの表情は暗い。
「おまえ、だって恋愛なんてしたくないって…」
「あのね、別に本気で恋をするわけじゃないの。これは疑似恋愛。鈴様は、この旅が終わればヒナタ令嬢と結婚する。わかりきった任務じゃない?」
 思わず、大声を出したので。
 後ろにいた白雪姫が「どうしたの?」と訊いてきた。
「なんでもない、進もう」
 と笑って足を速める。

「不意打ちの結末より、全然いいに決まってる」
 呟くように言った。
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