らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 村にある集会所のようなところに案内されて。
 私たちはようやく、一息つくことを許された。
 部屋に入るときに「靴は脱いでください」と村長に言われ、
 そうだったと、入口で靴を脱いだ。
「土足厳禁の部屋なんですわね」
 と、感心したようにシナモンが言う。

 集会所は、赤色の絨毯が敷いてあるだけで、何もない。
 座っていると、30代くらいの女性がやって来て、お茶を淹れてくれたのだが。
 何故か私と白雪姫の分がなかった。

 ジェイがなんとか、カハナをなだめて私たちを中に入れてくれたのだが。
 歓迎する気はないというのが、よくわかった。
「そうか、ケリー侯爵家へ行くのか」
 任務の目的をかいつまんで話し終えると。
 カハナは、鈴様をじっと見た。
「ケリー家の四男坊か…」
 鈴様のほうが年上だというのに、カハナは上から目線で鈴様に言った。
 そういえば、今更気づいたけど。
 鈴様とカハナは雰囲気がよく似ている。
「私は今は、ドラモンド侯爵家の養子(にんげん)だ」
 むっとした表情で、鈴様が言った。
「そうか…、しかし。四男坊は我々の血が強く出ているのだな。その外見じゃ、北部では浮くであろう?」
 決して、カハナに悪気があるのではない。
 鈴様は、カハナを睨みつけるように見ている。
 カハナは、鈴様の視線に気づいているはずなのに、気にすることもなく茶碗に入ったお茶をすすった。
「ケリー家は代々、我々一族の意見を尊重し、人権を尊重し…手厚く親切な対応をしてくれている。おまえの父親にお礼を言っておいてくれ。私はここから離れられない」
 12歳であるにも関わらず、大人ぽい口調になる。
 カハナの精神年齢って何歳なのだろうと考えるくらい。
 時に、大人ぽい口調と思考を持っているから凄いと思う。

 ただ、鈴様のことを「おまえ」と言うのはどうかと思うが…

 鈴様は、カハナの言うことに頷きもせず、お茶をすすった。
 外から、子供たちの遊ぶ声が、聞こえてくる。

 カハナは上座に座り込み、じろりと私たちを一人一人眺めた。
「おい、そこの変な格好をしている女」
 カハナが向けた視線の先にいるのは、シナモンだった。
「わたくしでしょうか?」
「おまえは、騎士団ではなさそうだが何のためにケリー家に向かってる?」
 じっと黒い瞳がシナモンを捕らえ続けている。
 なんで、こんなに空気が重たくなるのだろう。
「わたくしは、ミュゼ様の侍女として同行させてもらっているだけですわ」
「侍女というのは?」
 そこは、お子ちゃまだなあと思って思わず、にやりとしてしまったけど。
 すぐにカハナに睨まれてしまった。
「主人のお手伝い…身の回りの世話をすることですわ」
「本当に、この女のお手伝いなのか?」
 しんっ…とその場の空気が静まり返る。
 やはり、巫女。
 いや、巫女じゃなくても国家騎士団に侍女が紛れ込んでいたら、おかしいと思うのは普通なのかもしれない。
「さすがカハナ様にございますね。わたくしは、国家騎士団頭脳班団長である、ツバキ様のもとで仕えておりました」
「そうか…ツバキ殿のお手伝いさんか」
「まあ、カハナ様はツバキ様をご存知なのですね」
 シナモンのオーバーアクションにカハナは「知ってる」と低い声を出した。
「以前、世話になった」
「そうでしたか。わたくしは今回、ツバキ様の命を受けて、一般人ながら皆様と一緒に旅をしているのでございます」
 シナモンは笑顔で、爽やかに答える。
 だが、カハナは不満そうだ。
「本当に、それだけか?」
 この国では珍しい、黒い瞳から垣間見える怒りの炎。
 12歳だというのに、この圧力はなんなのだろう。
 隣に座っている白雪姫は「ひぃ」と私にしがみついてくる程の圧力だ。

 シナモンは首を傾けたけど。「ああ、そういうことですか」と小さく呟いた。
「ご安心ください。カハナ様。わたくしのタイプは、こちらにいるホムラ様やツバキ団長のような年の離れた、大人の男性でございますから」
 いきなりシナモンが爆弾発言をしたので、ホムラさんはごほっ…とお茶を吹いた。
 確かに年は離れているけど、ホムラさんは見た目が若く見えるからどうなのか…
 って、突っ込むところを間違えていると、自分に突っ込みを入れる。
「残念ですが、わたくしジェイ様はタイプじゃないのです。ですから、ご安心ください」
 にっこりとシナモンが笑った。
 一体、何を言っているのだ…と一同がシナモンを凝視したけれど。
 カハナは、
「そうか、そうだな。そなたのようなお手伝いのお子様はジェイではなく、オッサンがタイプなのだろうからな。」
 と、上機嫌でニコニコと笑い出したので驚く。
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