らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 時折、波の音が聞こえる気がする。
 さっきまでの騒音が嘘みたいだ。
 カハナはジェイと一緒に寝るのかな。
 ジェイはロリコンでも変態でもないから、上手く距離を取るとは思うけど。

 目の前の木炭を眺めていると。
 鈴様は「ふう」とため息をついた。
 珍しい…鈴様でもため息をつくんだ。

 ぼお…としながら。
 ふと、なんで私は鈴様と2人きりになっているのだろうと冷めた思いが通り抜ける。
 いや、今冷静になってしまったら。
 自分自身が崩壊してしまう。
 鈴様がイケメンだけというのが、せめてもの救いだ。

 こうやって、異性と2人きりになるのは、いつ以来だろう?
 長い手足。
 暗くてもわかる、整ったお顔。
 時折、見せる鋭い目つき。
 時に脳内が赤ちゃん。
 好奇心旺盛の表情をして。
 人を見下して。
 世間知らずで、会話さえ成立しない…。

 次期、ドラモンド侯爵様・・・
「あの娘とあの男は幾つ年が離れているのだ?」
 じっと見とれていたら、鈴様と目が合った。
「へ? あの男?」
「あの生意気な娘とおまえの同僚だ」
「…ああ、ジェイとカハナのことですか」
 鈴様は、本当に人の名前を覚えないのだな…。

 私は膝を抱える。
「鈴様はあの2人が婚約者同士に見えないと思っているのですか?」
「…私の質問に答える気はないのか?」
 質問を質問で返したのが気にくわないのか。
 鈴様がこっちを睨む。
 睨まなくてもいいのに…
「多分、8つくらいじゃないですかあ~。というか、何でそんなことを?」
 鈴様が他人に興味を示すとは珍しい。
「ホムラがおまえの同僚のことを『ロリコン』と言っていた。何故、ロリコンになるのだ?」
 きょとんとした顔で鈴様が言うので。
 ホムラさん、余計なこと吹き込むなよお~と脳内で絶叫する。
「…まあ、鈴様がロリコンと思わなきゃ、あの2人はお似合いだと思いますよ」
 頭が上手く回らないので、よくわからない答えになってしまったが。
 鈴様は首を傾げて「そうか…」と言った。

 本当は、婚約者同士ではない。
 それを、鈴様に説明するのがだるい。
< 83 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop