らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 昔の思い出がよぎると同時に。
 悪寒が走った。
 ジェイのことを考えたせいで、カハナの呪いを受けたのだろうか。
 あの子のジェイに対する執念は語り尽くせないほどに重たい。
 巫女…とは言われているけど。
 本当に、彼女の中に不思議な力があるのではないかと…思ってしまう。

 カハナに、この小屋を提供されて。
 鈴様と移動する際、シナモンがこっそりと「持って行ってください」と。
 毛布を渡してくれたのを思い出して。
 そこらへんに置いておいた毛布を持ってきて、くるまった。
 隙間風のせいで、寒い。
 酔いが次第に冷めていく。

 鈴様は特に寒そうにしていないので、放っておくとしよう。
 急に毛布にくるまったのにも関わらず、鈴様はぼーとしている。
 ジェイや白雪姫だったら、すぐ気づいて。
「どうした、寒いのか?」
 と心配してくれるというのに。
 鈴様は、女性に対する配慮がまだまだ足りない。

「そなた、婚約者がいたのか?」

 毛布あったかいなあ…と思っていたら。
 また、鈴様が質問してきたので、低い声で「は?」と返事してしまう。
「さっき、娘が言っていたではないか。婚約者がいて、娼婦をしているのがバレて破談になったと」
「なんで、鈴様にそんなこと言われなきゃいけないんです?」
 ばっと立ち上がると、くるまっていた毛布がすとんと落ちた。
 頭に血がのぼる。
 囲炉裏を飛び越えて。
 私は考えもせずに、鈴様の腕を掴んだ。
「あの子の言うことは、嘘です。お願いだから、あの子の言うことを信じるのはやめて」
 急に近づいて、腕を掴まれた鈴様は硬直している。
 じっと、私を見ている。
 ぎゅっと力強くつかんだのに。
 鈴様は嫌がる顔をせず。
 私を見ている。
 その視線が耐えられなくなって、私は「すいません」と手を放した。
 この人は、私を汚い人間なのだと思っているのだろうか。

「…トビー・ボールドウィン」

 目をそらすと同時に、鈴様が言った。
 私は「ぎゃあ」と声を漏らしてしまう。
 もう、暗闇に目が慣れてしまった。
 ぎろりと鈴様を睨む。
 決して、言ってはいけない。
 踏み込んではいけない領域にこの人は。
 ずかずかと入り込んでくる。
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