らんらんたるひとびと。~国内旅編~
「調べたんですか。ああ、そうですよね、ドラモンド侯爵の人間ですもんね、あなたは」
 予め、わかっていたはずだ。
 お互いの素性は調べ上げられている。
 だったら、あの子の言うことが嘘だっていうこともすぐに気づいたはずだ…

「先週、ドラモンド侯爵に電話したら。そなたにトビー・ボールドウィンについて()いてみろと言われた」
「……」
 立ち上がると、私は元の場所に戻って毛布にくるまった。

「そなたの婚約者だった人物か…」
 すぅ…と鼻から空気を吸い込むと。
 潮の匂いがする。
 はぁ…と口から息を吐きだす。

 じんわりと涙腺がゆるむ。
 泣きたくなかった。
「どこまで、ドラモンド侯爵から聞いているんですか? わかってるなら、訊かないでほしい」
「そなたのことは、何も聴かされてない。ホムラは知っているだろうが…」
 ホムラさんは知っている…。
 ああ、そうだよね、一緒に旅しているんだもんね。
 頭をおさえる。
 ぽたっ…と我慢しきれずに涙が溢れた。

 泣いているにも関わらず、鈴様は表情を変えない。
 この人に今、告げなくても。
 どうせ、ホムラさんが教えるだろう。
 けど、もう。
 全部が…考えるのも面倒臭い。

「そうですよ。トビー・ボールドウィンはかつて私の恋人でした。今、彼は中央部の伯爵令嬢の婿養子になって、幸せに暮らしている。いずれ、鈴様は彼に会うかもしれませんね」
 頭をおさえながら、訊かれてもいないことを話してしまう。
 もう、我慢するのも限界だ。
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