らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 波の音に、空から降り注ぐ月の光。
 陰影で、鈴様の顔はとにかく美しく見える。
「父親が自分の娘を売ったというのか?」
「鈴様。貴方(あなた)には庶民の生活なんてわからないでしょうけど。底辺の人間なんてそんなものです」
「だが、そなたは国家騎士団だろう? 家族の分の生活費だって保障されているのではないか」
「…親がクズなだけ」
 呟くように言うと、鈴様が「何?」と聴き返す。
「娼婦館に売られたけど、ちゃんと逃げ出しましたから。私は娼婦ではありません」
「娼婦館というのは、一度踏み入れたら逃げられない場所なのだろう? そなたの言うことには矛盾している」
「いや、なんで鈴様が娼婦館の事情知ってるかね?」
 思わず、タメ口で突っ込んでしまう。
 世間知らずのくせに、変なことには知識がある。
 …まあ、鈴様も男だもんな。
 仕事での付き合いでジェイでさえ、行ったことあるっていうし。

 あああ…と声に出した後。
 もう、言ってしまえと思った。

「自ら命を絶ちました」
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