らんらんたるひとびと。~国内旅編~
鈴様は口を開けて、まばたきを何度か繰り返した。
「あ、命を絶つといっても急所は外れていたので生きていますけどね」
アハハと笑った。
もう、笑うしかない。
「娼婦館から出られる方法は病気になるか死ぬか…大富豪に買われるかのどれかしかない。だから私は知らない男に抱かれるくらいだったら、死のうって思ったんですよ。鈴様、温泉の時見たでしょう? あの傷ですよ」
「…あれは、戦争で受けた傷だと言っていたはずだ」
少年騎士団学校、青年騎士団学校の6年間の学校生活を終えると。
3週間ほどの春休みが与えられる。
6年間、一度も実家に帰ることは許されなかった。
本当は帰りたくなかったけど、トビーが帰るっていうから仕方なく私も春休み中は実家へ帰ることにした。
幼い頃、父と母が離婚して。
それから、母が女手一つで私を育ててくれた。
母は、朝から晩まで働いていたから。
私はいつも一人ぼっちで。
近所に住んでいた同い年のトビーという男の子と一緒に毎日のように遊んでいた。
トビーは私にとって初恋の人だった。
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
トビーが「騎士団学校へ行く」と言ったときは絶望したものだ。
毎日、泣いた。
泣いて、泣いて。
あまりにも泣くからトビーのおじいさんがこっそりと「女の子も入団できるんだよ」と教えてくれた。
「なにを、笑っている?」
気づいたら、睨むように鈴様が私を見ている。
「いえ…、こうして口にしてみると。ほんと…私の人生ってクソみたいだなって」
身体に毛布を巻き付けたまま、鈴様の隣に座って。
鈴様の手を取って思いっきり握ってやった。
鈴様は驚いていたけど、抵抗はしてこない。
「鈴様、気をつけてくださいね。女は嘘つきだから。きちんと、真実を見極めてください」
「…今の話は嘘ってことか?」
私は黙って微笑んでやった。
鈴様の手は、ぞっとするほど冷たかった。
「わからないな…。そなたの話が真実だと仮定して。娼婦になることを恐れて切腹したとして…何故、婚約解消に繋がる?」
「切腹じゃくて、刺したのは胸ですけどね」
「胸? じゃあ、背中の傷は?」
「あれは正真正銘、3年前の戦争で付いたものですよ」
肩が触れると、鈴様の身体が冷えていることに気づいた。
黙って毛布の半分を鈴様の肩にかける。
親しくもない女が、手を握ってくっついてきたというのに。
鈴様はなんの疑問も思わずに、抵抗さえしない。
この人、本当に侯爵になる人間として大丈夫なのか心配になってくる。
「身体に傷がついている女は世間的には受け入れられないものなんですよ」
「そうなのか? それだったら、騎士団の女は全員嫁に行けないということになるぞ」
正論を突かれて、「うっ」という声を漏らす。
はあ…とため息がこぼれる。
「胸を刺して…目を覚ましたら、全てが終わってました」
「終わる?」
「婚約破棄ですよ。私が入院している間に、トビーは伯爵令嬢と婚約していた。それだけの話です」
眉間に皺を寄せた鈴様がすぐ目の前にいる。
どさくさに紛れて繋いでいた手をぎゅっと強く握り返される。
「意味がわからん…」
鈴様の言葉に、思わず「でしょうね」と言ってしまった。
「あ、命を絶つといっても急所は外れていたので生きていますけどね」
アハハと笑った。
もう、笑うしかない。
「娼婦館から出られる方法は病気になるか死ぬか…大富豪に買われるかのどれかしかない。だから私は知らない男に抱かれるくらいだったら、死のうって思ったんですよ。鈴様、温泉の時見たでしょう? あの傷ですよ」
「…あれは、戦争で受けた傷だと言っていたはずだ」
少年騎士団学校、青年騎士団学校の6年間の学校生活を終えると。
3週間ほどの春休みが与えられる。
6年間、一度も実家に帰ることは許されなかった。
本当は帰りたくなかったけど、トビーが帰るっていうから仕方なく私も春休み中は実家へ帰ることにした。
幼い頃、父と母が離婚して。
それから、母が女手一つで私を育ててくれた。
母は、朝から晩まで働いていたから。
私はいつも一人ぼっちで。
近所に住んでいた同い年のトビーという男の子と一緒に毎日のように遊んでいた。
トビーは私にとって初恋の人だった。
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
トビーが「騎士団学校へ行く」と言ったときは絶望したものだ。
毎日、泣いた。
泣いて、泣いて。
あまりにも泣くからトビーのおじいさんがこっそりと「女の子も入団できるんだよ」と教えてくれた。
「なにを、笑っている?」
気づいたら、睨むように鈴様が私を見ている。
「いえ…、こうして口にしてみると。ほんと…私の人生ってクソみたいだなって」
身体に毛布を巻き付けたまま、鈴様の隣に座って。
鈴様の手を取って思いっきり握ってやった。
鈴様は驚いていたけど、抵抗はしてこない。
「鈴様、気をつけてくださいね。女は嘘つきだから。きちんと、真実を見極めてください」
「…今の話は嘘ってことか?」
私は黙って微笑んでやった。
鈴様の手は、ぞっとするほど冷たかった。
「わからないな…。そなたの話が真実だと仮定して。娼婦になることを恐れて切腹したとして…何故、婚約解消に繋がる?」
「切腹じゃくて、刺したのは胸ですけどね」
「胸? じゃあ、背中の傷は?」
「あれは正真正銘、3年前の戦争で付いたものですよ」
肩が触れると、鈴様の身体が冷えていることに気づいた。
黙って毛布の半分を鈴様の肩にかける。
親しくもない女が、手を握ってくっついてきたというのに。
鈴様はなんの疑問も思わずに、抵抗さえしない。
この人、本当に侯爵になる人間として大丈夫なのか心配になってくる。
「身体に傷がついている女は世間的には受け入れられないものなんですよ」
「そうなのか? それだったら、騎士団の女は全員嫁に行けないということになるぞ」
正論を突かれて、「うっ」という声を漏らす。
はあ…とため息がこぼれる。
「胸を刺して…目を覚ましたら、全てが終わってました」
「終わる?」
「婚約破棄ですよ。私が入院している間に、トビーは伯爵令嬢と婚約していた。それだけの話です」
眉間に皺を寄せた鈴様がすぐ目の前にいる。
どさくさに紛れて繋いでいた手をぎゅっと強く握り返される。
「意味がわからん…」
鈴様の言葉に、思わず「でしょうね」と言ってしまった。