らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 もう・・・自分はこの家の子供ではないはずなのに。
 母は、自分の部屋を片付けることをせず、そのままにしておいてくれた。

 鈴は今まで味わったことのないような複雑な気持ちになった。
 2階に上がって部屋のドアを開けると。
 ずしん…と胸が苦しくなった。
 薄暗いが、何一つこの部屋は変わっていないと気づいた。

 ドアの前で立ち尽くしていると、後ろから「鈴様」と低い声で言われたので。
 鈴はすぐに舌打ちして振り返った。
 とっくに客室に行ったと思っていたホムラが立っていたからだ。
「明日のご予定ですが、こちらに迎えにくればよろしいでしょうか」
「ああ。そうしてくれ」
「では、おやすみなさい」
 ホムラはぺこりと頭を下げると、暗闇の中へと消えて行った。
 自分より一回りも年上だというのに、見た目はどうみても20代前半にしか見えないホムラ。
 かつては国家騎士団でドラモンド侯爵と共に活躍し、国家騎士団を辞めたドラモンド侯爵にスカウトされ、北部の侯爵家へ共にやってきた男…
 ドラモンド侯爵の忠実な部下として働いてきた彼は今、鈴の部下として働いている。
 そんな男と鈴の生家にいるのが不思議な感覚だった。

 鈴はベッドへと倒れ込んだ。
 自分が思っている以上に緊張していたようだ。
 生まれ育った本当の自分の家だというのに、こんな感情になるとは。
「夜でよかった…」
 鈴は呟くと、目を閉じた。
< 99 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop