離縁の理由は愛されたいと思ったからです

お誘い

お誘い


「奥様、庭の花がとてもきれいに咲いていますよ!」

「奥様、旦那様からプレゼントです」

「奥様、奥様……」


 本邸からメイドが来た。


「わたくしのことは()()で呼んで欲しいの……ダメ?」

 こてんと頭を傾げると目を逸らすメイド達。

「わたくしの事なんて名前を呼ぶ価値もないのね」
 

 自分で言って悲しくなる。奥様だなんて言いながら戸籍上の夫は恋人と同じ邸で暮らしていてお飾りのくせに! なんて心では嘲笑っているかもしれない。


「……いえ、旦那様にそう呼ぶようにと言われておりますので……」

 やっぱり……押し付けがましいわね!


「そう? でもここに侯爵様はおりませんわ。残念だけどあなた達の主は侯爵様ですものね。ごめんなさい無理を言ってしまったわ」

 この人たちは悪くない。主人の命令に背くことはしないだけ。


「申し訳ございません……それでは旦那様がいない時だけお名前で呼ぶことをお許しください」

 一瞬ポカンとした表情を浮かべてしまった……でもジョゼフがいない時だけでもそう呼んでくれるのは嬉しい。奥様でいる事がストレスなのだから。


「ありがとう、嬉しいわ。それとお庭のお花は綺麗そうだけどまた今度にしておくわね。今日は今から出かける用事があるの」

 今日は午後からプレオープンだ。その為私も店に行き売り子をする。ドキドキするわ。


「そうでしたか。差し出がましい事を申してしまいました。ルーナ様には是非侯爵家自慢の庭園をご覧いただきたかったのです」

 たしかに侯爵家の庭園は美しい。一部分しか足を踏み入れた事はないけれど、それでもよく分かる。離れの庭だけでも十分に美しい。バラ園まであるのだから大したものだ。


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