離縁の理由は愛されたいと思ったからです
 しばらくしてバルビエ前侯爵夫妻と目が合い、軽く頭を下げた。隣に立っているのが前侯爵の弟の子供で、侯爵家の跡取りになる人だろう。二十歳そこそこの年齢かな? こちらを見て深々と頭を下げてきたので、私もそうした。

「おい、放っておけ」

「挨拶をされたから、」

「話しかけられたら、連れがいると言って俺か両親の元へ来るんだぞ」


 私だって面倒事は避けたい! もちろんそうしよう。それにしても社交界とは面倒なもので、次から次へと声をかけられた。

 演劇はどうだとか、絵画鑑賞はどうだとか、遠乗りの誘いまで……傷ついた心を癒します? なにそれ……全て作り笑いで誤魔化した。お兄様は妹は傷心の身でまだそういう気持ちにはならない。と言って子息達から遠ざけてくれる。はぁ、疲れた。



「お兄様、わたくし化粧直しに行ってきます」

「ついて、」
「こないで!」

「……分かった。すぐに戻ってくるように。明るい場所を選んで衛兵がいる所を歩くんだぞ」

 急に過保護? どうしたのお兄様は……お父様とお母様も社交に忙しそうね。きっと私の話もたくさんされただろう。申し訳ない。


 化粧室へと行き一息ついたところで、会場に戻る事にした。廊下を歩くとひんやりとした風が心地よくて立ち止まって庭園を見ていた。

「ベルモンド伯爵家のルーナ嬢ですね?」

 名前を呼ばれ、振り向くとそこには先程頭を下げられたバルビエ前侯爵の弟の子息がいた。

「え、えぇ、そうですわ」

「はじめまして。私はマッテオ・バルビエと申します」

「ご丁寧な挨拶痛み入ります。ルーナ・ベルモンドですわ」

「こんなに美しい令嬢を放ってあんなオンナに惚れていたなんてジョゼフ兄さんは趣味が悪い」

 これはマズイわね。お兄様の言う通りにしなきゃ。


「もう過去の事ですわ。忘れましょう」

「少しお話をしませんか?」

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