転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ様、本当によろしいのでしょうか?
わたくしはノア王太子殿下から招待されているわけではありませんのよ」

 アイシャはリンベル伯爵家の馬車に乗り、向かいに座るアナベルと共に王城へ向け進んでいた。

「問題ありませんわ。ノア王太子殿下からの手紙には一人で来いとは書いてありませんでしたから」

「はぁ、まぁ……、書いていなくとも、王太子殿下からの誘いに無関係な令嬢を連れて行こうなんて考えるのはアイシャ様くらいですわ。普通は、ノア様と二人きりになりたいものですから」

 そんな会話を交わしながら馬車は進み、王城の門扉に着く。先に馬車から降りたアイシャに例の侍従が恭しく礼をとった。

「アイシャ様、お待ちしておりました。王太子殿下が庭園にてお待ちでございます。ご案内致します」

 久々に再開した侍従は、夜会の時のように取り乱すこともなく、いつもの冷静な態度に戻っていた。

 あの時は、急に手を握られ涙していた姿に正直引いてしまったが、今日は正常運転で一安心だ。

 そんなことを、頭の中で考えていると、踵を返した侍従が、歩き出してしまう。その様子を目にとめたアイシャは、慌てて侍従に声をかけた。

「お待ちになって。今日は、お友達を連れて参りましたの」

「はっ?? あのぉ、王太子殿下のお客様はアイシャ様のみと伺っておりますが、お友達とは――――っこ、これは、リンゼン侯爵家のアナベル様でございますか!? 大変、失礼致しました。直ぐに確認を取りますので、しばしお待ちを」

 慌てて、その場を立ち去ろうとしていた侍従の手をつかみ、言葉を紡ぐ。

「お待ちになって! アナベル様がお越しになっている事はノア王太子殿下には内緒にしたいの。サプライズというかぁ……、とにかく驚かせたくて。お願いです。この事は、ノア王太子殿下には内密に」

 侍従の両手を掴み、上目遣いで可愛らしくお願いすれば、侍従の顔がわずかに赤く染まった。

(アイシャ、貴方はぶりっ子よ!)

「――――っし、しかし、予定にない方の訪問は、安全面に関わると申しますか」

「わたくしと貴方様の仲ではありませんの。ここはひとつ、大目に見ては頂けませんか?」

 最終兵器よ! 伝家の宝刀涙目攻撃だぁ!

 目をシパシパさせて瞳をウルウルさせたアイシャは、侍従の手をさらに握りしめる。

「わわわわわかりましたからぁぁぁ、す、直ぐに王太子殿下の元へお二人をお連れ致しますから!! て、手を離して下さいませぇ!!!!」

 真っ赤な顔をして慌てる侍従を見て、やり過ぎたかと思い、慌てて手を離すが、鈍感なアイシャは、なぜ侍従が顔を赤くしているのか、さっぱりわからない。

(まぁ、私に大した魅力があるわけでもないし、目の前の侍従は女性に免疫がない方なんだわ)

 アイシャは見当違いな事を考えながら、アナベルと一緒に侍従の後に続く。

 不憫な侍従を見てアナベルが、ため息を溢していたなんて、少し前を歩いていたアイシャは知るよしもなかった。

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