転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アナベル様に叱責された覚えはありませんわ。あの夜会では、デビュタントとして未熟なわたくしを見兼ねたアナベル様が、アドバイスを下さったのです。わたくしだって、まさか二曲続けて男性とダンスを踊るはめになろうとは、思いもしませんでしたから。親切にもデビュタントの心得を説いて下さいましたの。『デビュタントは壁の花になれ』と」
「「はっ??」」
ノア王太子とアナベルの声が見事にハモる。
「ま、待ってくださいませ。アイシャ様はどちらで、そのようなデビュタントの心得を教えてもらったのですか?」
目を丸くしたアナベルに問われ、アイシャの頭の中で疑問符が浮かぶ。
(――――えっ?? 違うの?)
「親切なお友達の令嬢方に。デビュタントは目立たず、驕らず、淑やかに壁の花となれ。男性から話しかけられても相槌を打つだけで話しかけてはいけない。誘われてもホイホイついていかない。デビュタントの心得ですよね?」
「………」
「………」
二人の目が点になっている。
(――――えっ?? やっぱり違うの?)
「ははは。アイシャのお友達の令嬢方はよっぽど君が心配だったんだね。まぁ、アイシャの言うデビュタントの心得は合っているよ。君、限定でね」
「はぁ~? 何ですかそれは?」
「アイシャ様、世の中には知らない方が良い事もありますわ。社交界の様々な事情を知る内にアイシャ様の言うデビュタントの心得の本当の意味が解るようになるかと思います」
諭されるように言われた言葉に何とも釈然としない気持ちが込み上げるが、今は考えるのをやめる。
(私のことは、どうでもいいのよ。今は、アナベル様の良さをノア王太子にアピールせねば)
「まぁ、デビュタントの心得なんてどうでもいいのです。わたくしとアナベル様が親しくなったのは最近ですの。実は、船旅でアナベル様に偶然お会いしまして、居ても立っても居られず、わたくしからお友達になって下さいと申し上げた次第です」
「ほぉ〜、アイシャからアナベルに。それはまた、どうして?」
「実はわたくし、以前からアナベル様のファンでして、あらゆる伝手を使い情報を収集しておりましたの」
「えっ!? アイシャ様、それは本当ですか?」
「はい。初めてお会いした時からアナベル様の真っ直ぐで、一本筋の通った性格に心惹かれておりまして、ぜひお友達になりたいと。しかし、アナベル様はリンゼン侯爵家のご令嬢様でしょ。格下の伯爵令嬢如きがお友達になって下さいと言っても門前払いされるだけだと思いまして、外堀から埋めようかと」
アイシャの話を聞いたアナベルが顔を真っ赤にしてうつむき、その隣では、ノア王太子が肩を震わせ笑っている。
「本人の前でそれを言っちゃう当りがアイシャらしいというか、アホと言うか……」
(なんかノア王太子が私を小声でアホとか言ったような気がしたが、まぁ気のせいだろう)
とりあえず、肩を震わせ笑うノア王太子は無視だ。
「アナベル様は私の想像を超える素晴らしい方でしたわ。皆に平等で、その博識ぶりは他を寄せ付けない程だとか。知識に驕らず上を目指し努力を惜しまない。高位貴族にありがちな傲慢な態度はなく、謙虚で優雅な振る舞いは淑女の鑑と言われているとか」
「ア、アイシャ様……、ほ、ほめすぎです」
「何を言いますか、アナベル様。貴方様の真摯な態度は賞賛に値しますわ。そんな素晴らしい女性とどうやったらお友達になれるかと考えていたところ、偶然、船上にてお会い致しました。船旅という開放感あふれる環境のおかげか、たまたまお会いしたアナベル様と意気投合しまして、目出度くお友達となることが出来ましたの」
「アナベルが船旅に行くなんて珍しいね。確か伯母上は、船旅は苦手だったと記憶しているが。リンゼン侯爵も休みを取りバカンスへ行ったとは聞いていない。まさか、アナベルだけで船旅へ?」
「えぇ、まぁ……、色々ありまして。気分転換に一人で船旅へ行く許可を父に取りましたの」
「アナベル様は、失恋を癒すため船旅へ行かれたそうですわ。お相手の方とは婚約間近だったそうですが、お相手の方が思いもよらぬ行動に出たとか」
スッと視線をノア王太子へと移し、ジッと見つめるが、表情に変化はない。
(ノア王太子よ。知らぬ存ぜぬを通すつもりね)
「そのお相手の方、どこぞの格下令嬢に求婚するなんていう暴挙に出たそうですわ。アナベル様は大層なショックを受け、傷心旅行へ出掛けたと。そこで運悪く恋敵と鉢合わせ、何の因果か恋敵とお友達になってしまわれたとか。ノア王太子殿下……、わたくしのお話、理解できまして?」
顔を赤くしたり青くしたりしているアナベルとは対照的に、ノア王太子の表情はアイシャの言葉を受けても、ニヒルな笑みを浮かべたまま変わらない。
「ははは、くくっ……、アイシャの話は理解したよ。私に一矢報いるため、二人は手を組んだということだね。それで、この後二人はどうしたいのかな?」
目の前に座るノア王太子の視線が鋭さを増し、突き刺さる。しかし、ここで怯んでいるわけにはいかない。ノア王太子を攻略出来なければ、リアムとの未来はないのだから。
アイシャは気合いを入れ直し、言葉を紡ぐ。
「ノア王太子殿下はきちんとアナベル様の気持ちを受け止めるべきだと思います。お二人は婚約間際でしたのでしょ? なら、ノア王太子殿下はアナベル様に婚約に至らなかった理由をきちんとお話しするべきです。そうでなければ、アナベル様も気持ちに踏ん切りがつきません。今日はそのためにアナベル様にお越し頂きました。――――っという訳で、お邪魔なわたくしは、これにて失礼致します」
アイシャは立ち上がるとノア王太子とアナベルへ礼をし、その場を脱兎の如く逃げ出した。後ろからアナベルが何か叫んでいたが、アイシャの足が止まることはない。
(あとは、アナベル様とノア王太子の時間)
アイシャは心の中でアナベルにエールを贈りながら、ある人物に会うために先を急いだ。
「「はっ??」」
ノア王太子とアナベルの声が見事にハモる。
「ま、待ってくださいませ。アイシャ様はどちらで、そのようなデビュタントの心得を教えてもらったのですか?」
目を丸くしたアナベルに問われ、アイシャの頭の中で疑問符が浮かぶ。
(――――えっ?? 違うの?)
「親切なお友達の令嬢方に。デビュタントは目立たず、驕らず、淑やかに壁の花となれ。男性から話しかけられても相槌を打つだけで話しかけてはいけない。誘われてもホイホイついていかない。デビュタントの心得ですよね?」
「………」
「………」
二人の目が点になっている。
(――――えっ?? やっぱり違うの?)
「ははは。アイシャのお友達の令嬢方はよっぽど君が心配だったんだね。まぁ、アイシャの言うデビュタントの心得は合っているよ。君、限定でね」
「はぁ~? 何ですかそれは?」
「アイシャ様、世の中には知らない方が良い事もありますわ。社交界の様々な事情を知る内にアイシャ様の言うデビュタントの心得の本当の意味が解るようになるかと思います」
諭されるように言われた言葉に何とも釈然としない気持ちが込み上げるが、今は考えるのをやめる。
(私のことは、どうでもいいのよ。今は、アナベル様の良さをノア王太子にアピールせねば)
「まぁ、デビュタントの心得なんてどうでもいいのです。わたくしとアナベル様が親しくなったのは最近ですの。実は、船旅でアナベル様に偶然お会いしまして、居ても立っても居られず、わたくしからお友達になって下さいと申し上げた次第です」
「ほぉ〜、アイシャからアナベルに。それはまた、どうして?」
「実はわたくし、以前からアナベル様のファンでして、あらゆる伝手を使い情報を収集しておりましたの」
「えっ!? アイシャ様、それは本当ですか?」
「はい。初めてお会いした時からアナベル様の真っ直ぐで、一本筋の通った性格に心惹かれておりまして、ぜひお友達になりたいと。しかし、アナベル様はリンゼン侯爵家のご令嬢様でしょ。格下の伯爵令嬢如きがお友達になって下さいと言っても門前払いされるだけだと思いまして、外堀から埋めようかと」
アイシャの話を聞いたアナベルが顔を真っ赤にしてうつむき、その隣では、ノア王太子が肩を震わせ笑っている。
「本人の前でそれを言っちゃう当りがアイシャらしいというか、アホと言うか……」
(なんかノア王太子が私を小声でアホとか言ったような気がしたが、まぁ気のせいだろう)
とりあえず、肩を震わせ笑うノア王太子は無視だ。
「アナベル様は私の想像を超える素晴らしい方でしたわ。皆に平等で、その博識ぶりは他を寄せ付けない程だとか。知識に驕らず上を目指し努力を惜しまない。高位貴族にありがちな傲慢な態度はなく、謙虚で優雅な振る舞いは淑女の鑑と言われているとか」
「ア、アイシャ様……、ほ、ほめすぎです」
「何を言いますか、アナベル様。貴方様の真摯な態度は賞賛に値しますわ。そんな素晴らしい女性とどうやったらお友達になれるかと考えていたところ、偶然、船上にてお会い致しました。船旅という開放感あふれる環境のおかげか、たまたまお会いしたアナベル様と意気投合しまして、目出度くお友達となることが出来ましたの」
「アナベルが船旅に行くなんて珍しいね。確か伯母上は、船旅は苦手だったと記憶しているが。リンゼン侯爵も休みを取りバカンスへ行ったとは聞いていない。まさか、アナベルだけで船旅へ?」
「えぇ、まぁ……、色々ありまして。気分転換に一人で船旅へ行く許可を父に取りましたの」
「アナベル様は、失恋を癒すため船旅へ行かれたそうですわ。お相手の方とは婚約間近だったそうですが、お相手の方が思いもよらぬ行動に出たとか」
スッと視線をノア王太子へと移し、ジッと見つめるが、表情に変化はない。
(ノア王太子よ。知らぬ存ぜぬを通すつもりね)
「そのお相手の方、どこぞの格下令嬢に求婚するなんていう暴挙に出たそうですわ。アナベル様は大層なショックを受け、傷心旅行へ出掛けたと。そこで運悪く恋敵と鉢合わせ、何の因果か恋敵とお友達になってしまわれたとか。ノア王太子殿下……、わたくしのお話、理解できまして?」
顔を赤くしたり青くしたりしているアナベルとは対照的に、ノア王太子の表情はアイシャの言葉を受けても、ニヒルな笑みを浮かべたまま変わらない。
「ははは、くくっ……、アイシャの話は理解したよ。私に一矢報いるため、二人は手を組んだということだね。それで、この後二人はどうしたいのかな?」
目の前に座るノア王太子の視線が鋭さを増し、突き刺さる。しかし、ここで怯んでいるわけにはいかない。ノア王太子を攻略出来なければ、リアムとの未来はないのだから。
アイシャは気合いを入れ直し、言葉を紡ぐ。
「ノア王太子殿下はきちんとアナベル様の気持ちを受け止めるべきだと思います。お二人は婚約間際でしたのでしょ? なら、ノア王太子殿下はアナベル様に婚約に至らなかった理由をきちんとお話しするべきです。そうでなければ、アナベル様も気持ちに踏ん切りがつきません。今日はそのためにアナベル様にお越し頂きました。――――っという訳で、お邪魔なわたくしは、これにて失礼致します」
アイシャは立ち上がるとノア王太子とアナベルへ礼をし、その場を脱兎の如く逃げ出した。後ろからアナベルが何か叫んでいたが、アイシャの足が止まることはない。
(あとは、アナベル様とノア王太子の時間)
アイシャは心の中でアナベルにエールを贈りながら、ある人物に会うために先を急いだ。