転生アラサー腐女子はモブですから!?
「キース、珍しいな。わしが帰ってすぐ、お前が尋ねてくるとは……、何かあったか?」

 帰宅するとすぐに執務室へと向かった父を訪ね、キースもまた執務室へと入る。王城での会議が紛糾したのか、疲れた様子の父は、きっちりと留めていた首元のボタンを外し、ソファへドカっと座る。

 確か、今日の議題は、『白き魔女』についての話し合いだと聞いている。良くも悪くも、貴族の間では、グレイスが白き魔女だと認知されている。様々な思惑をはらんだ話し合いを立ち回るのは、骨が折れる。そう言った貴族間の駆け引きを苦手とする父には、神経をすり減らした会議だったのだろう。

「父上、今日の王城での議題は、『白き魔女』の扱いに関してですね? どう言った話し合いがなされたのでしょうか?」

「なんだ、ルイスから聞いたのか? アイツも……、機密事項だっていうのに」

「今更ですよ。ルイス兄さんとは、情報を共有しているので。策を練るのが苦手な父上の代わりに、息子同士協力しなければ、でしょ」

「はは、確かにな」

 アイシャが白き魔女として力を発動したあの事件から一年。キースもまた、アイシャにふさわしい男になるために努力をし続けた。その結果、騎士団の一部隊の隊長から、数部隊をまとめる中部隊長へ昇格し、近々、副団長を務める兄ルイスの補佐役に抜擢される話も出ている。

 そのため、兄ルイスと係る任務も増え、必然的に、父の事務的な仕事を一手に担っている兄とは、あらゆる情報を共有するようになった。その中で、今日の会議で、白き魔女の議題が上がることも知ったのだ。

「父上は、ドンファン伯爵家のグレイス嬢が本物の白き魔女だと思いますか?」

「今の段階では何とも言えんが、胡散臭い事、この上ないな。黒い噂が絶えんドンファン伯爵が絡んでいるのも裏があるように思う」

「では、ウェスト侯爵家のリアムがドンファン伯爵家のグレイス嬢と婚約した事に関してはどう思われますか?」

 上体を起こし、ソファへと座り直した父が、難しい顔をして黙り込む。

「ウェスト侯爵家の当主も、リアム殿もバカではない。社交界を賑わす『白き魔女』に躍らされて婚約を名乗り出たわけではないだろう。事実、ドンファン伯爵家の周りで王家とウェスト侯爵家の諜報部隊が動き回っている。まぁ、どちらの諜報部隊もかなり優秀だから、ドンファン伯爵家側の者達は誰も気づいていないがな」

「では、王家とウェスト侯爵家が、手を結んだと?」

「王家とウェスト侯爵家の間で、何らかの密約が交わさたのは、間違いないだろう。ノア王太子殿下とリアム殿の目的は、グレイス嬢が本物の白き魔女かを見極めることにあるのではないだろうか。敵の懐に入るためリアム殿がドンファン伯爵家のグレイス嬢と婚約を発表したと考えるのが妥当だろう」

 やはり、そうだったか……

 しかし、その話を聞いても、ノア王太子とリアムに感じている怒りは収まらない。自分の腕の中で泣いていたアイシャの心情を考えれば、許せるものではない。
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