転生アラサー腐女子はモブですから!?
 あの夜会以降も、キースはリンベル伯爵家を訪ねて来てくれる。その頻度たるや、『貴方はリンベル伯爵家の家族ですか?』と突っ込みを入れたくなる程だ。

 ひょっこり現れては、『店先の花が綺麗だったので、つい買ってしまった』と花束を渡され、次の日には、『騎士団に差し入れられたお菓子が美味しかったので、貴方にも食べさせたくて』と、お茶の席に現れる。また別の日には、『時間が空いたから、久々に剣の練習をしないか?』と、外に連れ出され、数刻後にはナイトレイ侯爵家の練習場で、キースと剣を交わしていた。
 
 副団長補佐へ昇格したと言っていたキースは、忙しいはずなのだ。それなのに、隙間時間を見つけては会いに来てくれる。先日も夕飯の席に、ちゃっかり座っていた。その時の衝撃と言ったら、余りの驚きに母から促されるまで、その場に立ち尽くしてしまったほどだ。

 父とも酒を酌み交わし、人付き合いが苦手な父の心をも、がっちり掴んでいた。しかも、キースのことを嫌っていた兄ダニエルをも、あっという間に懐柔した人心掌握術は、見事としか言いようがない。周りへの気遣いといい、格下の伯爵家に対しても驕らない態度といい、文句の付けようがない。
 
 今や両親の心をもがっちり掴み、家族のように接してくれるキースの態度に、アイシャも絆されつつあった。

(両親もキースを気に入っているし、彼と結婚した方が幸せなのよね、絶対……)

 このままキースに流される未来を望む心の声が聞こえる一方で、リアムを忘れるために彼を利用してはダメだと叫ぶ小さな声もする。

(やっぱり、一人で生きていく未来を考え直すべきなのかしら?)

 答えの出ない問いが、アイシャの頭の中でグルグルと回り、前へ進めない。

 気晴らしに街のイケメン観察(腐女子的妄想含む)をしに来たのに、それすらもままならない。そんな自分のはっきりしない態度に、さらに自己嫌悪に堕ちいってしまう。

「よし! 考えるのはやめよう。今は趣味のイケメン観察だ」

 紅茶をひと口飲み、気合を入れ直す。

(さてさて、どんなイケメンカップルが通るかな?)

 頭の中の懸案事項を追い出し、アイシャは、街中を歩く人の波に目を向ける。好みのイケメンカップルが通らないか、目を凝らし見つめていたアイシャは、見覚えのある人物を見つけ、思わず立ち上がっていた。

「――――っうん!? あれって……、グレイス・ドンファン伯爵令嬢??」
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