転生アラサー腐女子はモブですから!?

あふれ出す想い

 呆然と立ち尽くすアイシャへと、リアムがゆっくりと近づいて行く。

「アイシャ、無茶し過ぎだ」

 目の前のリアムは、辛そうに顔を歪めると、立ち尽くすアイシャの肩を引き寄せ抱きしめた。

 何も考えられなかった。

 言葉を紡ぐことも出来ず、声にならない吐息だけが、空中へと霧散していく。リアムに捨てられてからの数ヶ月、辛く苦しい日々の中、何度も考えた疑問や恨み言は、彼の瞳を見た瞬間に頭の中から消えていた。リアムの温もりと懐かしい匂いに包まれ、アイシャの瞳から涙があふれ、頬を伝い落ちていく。

 リアムが好き……

 ただただ、時間が止まればいいと思っていた。

「アイシャ、すまなかった。君がこんな無茶をしたのも、全て私のせいだ。グレイスの後を追っていくアイシャを見た時、生きた心地がしなかった。本当に間に合って良かった」

 グレイス……

 その言葉がアイシャの中のドス黒い感情を呼び覚ます。

『バシンっ!!』

 アイシャはリアムの胸を押しのけると、手を振り上げ、彼の頬目掛け思い切り振り下ろした。耳障りな破裂音が、空虚な空へと響き、消えていく。

「なんで、よけないのよ!!!!」

 涙でボヤけて霞んだ視界に写るリアムを睨み、アイシャはありったけの力を込め、彼の胸を叩く。

「貴方だったら、簡単によけられるじゃない!!」

 悲鳴をあげる心のままに、もう一発リアムの頬を打つ。それでもリアムは抵抗すらしない。
 
 そんなリアムの態度にアイシャの怒りが爆発した。

「何なのよ……、貴方にとって私は何なのよ!! (もてあそ)んで、私の心をズタズタにしておいて、助けるなんて。貴方は何がしたいのよ!!!!」

 とうとう力尽きたアイシャは、その場へとへたり込み、地面に両手をつき泣きじゃくる。
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